選手とともにコートを駆けめぐり、冷静に試合を裁く審判。重責を担う役割ですが、審判はどんなことを考えながら試合に臨んでいるのでしょうか?まもなく開幕するW杯カタール大会で、史上初の女性審判員の一人に選出された山下さんが心がけていることは?
プレーの予測しながら感情的な選手にも注意を払う
── 審判は、試合中どんなことを考えながらジャッジしているのですか?プレッシャーを感じたり、緊張したりしませんか?
山下さん:
「試合開始の笛を吹くまでは、良い意味での緊張感や審判の責任を感じますが、試合が始まればその余裕はありません。
基本的に審判は、ゲームがどのように進行するかを想像して動きます。ボールを持つディフェンダーは次にどう動くのか、誰が誰にどうつないでゴールまで行くのか。
もちろん選手のクセやチームの特色も影響しますので、両チームの戦術を分析して頭に入れます。そうはいっても先入観にとらわれるのも良くないので、さらっと把握するくらいです。
次はどんなプレーが起きて、どのように対応すればいいのか。試合中は、審判が笛を吹くべきプレーがどこで起きるかを予測し、準備するプロセスを繰り返しています。
ボールや選手が見えなければジャッジできませんから、プレーを見極められる良い位置をとるためにも予測は欠かせません」
── 試合展開を予測して動くところは、まるでサッカーゲームをプレイしているかのようです。同時に、選手とのコミュニケーションも審判の大切な役割のひとつですね。
山下さん:
「試合のなりゆきを注視しながら選手の様子にもできるかぎり気を配り、コミュニケーションをとります。
危険行為を未然に防ぐためには、選手の声や表情から心理状態を把握する必要があります。そして、そのプレーはダメとしっかり伝えなければなりません。
例えば、感情が高ぶった選手がいれば、声かけや笛を吹くことで我に返らせ、試合に集中できるよううながします。
私自身は試合中に感情的になることはありませんが、危険をともなうプレーには、表情やジェスチャーで伝えるのは審判として大切だと思います」