もう畑は終わりにするはずなのに…?
さて、最後の夏野菜の収穫も落ち着いた9月のある日のことです。
義父から「畑に撒く石灰の粉をホームセンターで買ってきて」と言われた私は首をかしげました。
もう畑は終わりにするはずなのに…いや、でも次に菜園を借りる人のために土を肥やしておいてあげるのかな…そんなふうに思いながら、言われた通りのものを買って帰った私は、自分の目を疑いました。
自宅から少し離れた菜園ではなく、自宅の庭の少し広くなったところを、せっせと耕す義父母の姿がそこにあったのです。
え?庭?菜園やめるんじゃなかったんですか?
「菜園まで通うのは大変だけど、庭なら足が痛くても世話できるでしょう!」
「最近は食糧危機とか言われてるし、値上がりがひどいから!」
混乱する私に、額に汗を光らせた義父母が誇らしげに言い張りました。
なるほど…。
一度は菜園を諦めた義父でしたが、ここ最近の世界情勢の緊迫具合に焦りを感じ、家族の食べものを自分の手で作らなくては!と再び決意をしたようです。
さらに義母にもその熱意が伝播し、老夫婦二人は、今まで観葉植物を茂らせていた庭を、畑として開墾することに決めたらしいのです。
さすが、戦後の混乱期に育ったたくましい世代です。なんと頼もしいことでしょう。しかし、しかしですよ…。
ひと言、相談して???
いきなり庭が畑に変わっていたあまりの衝撃に、いまさら文句を言ってもこの二人は止まらないな…というこれまでの同居生活で学習した諦めも加わり、無言で立ち尽くす同居嫁なのでした。
同居嫁の次なる作戦
しかし、これからが私と義父の新たな戦いです。
食糧危機に備えるためと言うならば、これまでのように腐りやすい夏野菜や葉物野菜に注力するのはやめて、じゃがいもや玉ねぎ、かぼちゃなど、保存性の高い作物にシフトしてもらうしかありません。
というか、これまで何度もそうお願いしてきたのに、夏野菜の収穫量の喜びを手放せなかった義父が頑なに拒否してきたのです。
畑をやること自体は、高齢者の運動にも生きがいにもなり、決して悪いことだとは思いません。
しかし今度こそは、夏のキュウリ地獄から抜け出したい…そう決意を新たに、心のなかでファイティングポーズを固めるのでした。
文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ