ニュースステーションを降板

スラッとした立ち姿も凛々しい

── 現地で大変な思いをしながら、必死で取材されてきたのに…。

 

安藤さん:
そのときはもう「絶対にやめてやる!」って思いましたね。アルバイトだったし、「もう嫌だ!辞めてやる!」って(笑)。

 

でも、ふと思ったんです。「できないで辞めるのって、どれだけカッコ悪いんだろう」と。何かひとつでもいいから、人に「よくやったね」って褒めてもらってから辞めようって思ったんですよね。

 

それから6年後の1986年。フィリピンの市民革命「エドゥサ革命」が起き、マルコス前大統領の亡命および政権崩壊、新政府誕生の様子を伝えたことで、ギャラクシー賞個人奨励賞をいただきました。

 

「これで、もう辞めていいんだ!」と思いましたね。大学は、仕事のためしばらく休学していましたが、これを機に復学することにしたんです。

 

── やりきったような感じだったのでしょうか?

 

安藤さん:
そうですね。それと同時に「休学していた大学に戻るなら今だ!」とも思いました。当時出演していた、『ニュースステーション』(テレビ朝日)も降板することにしたんです。

「だってバイトだし」という気持ちだったけれど

── 大学を卒業されて、再びニュースの現場に戻られます。

 

安藤さん:
大学に戻って感じたことがあるんです。それは、教科書に書いてある文字が「立体化して見える」ということ。

 

大学に戻って国際論を勉強していると、以前は文字が平面で見えていたものが、取材で現地に行かせてもらったからか、アルファベットが立体化して見えるというか。事象として見えるんです。

 

そこで「私はあのとき、もしかしたら、歴史として記される場面に立ち会うことができたんだ」と初めて知って。改めて、「なんてすごい時間をもらっていたんだろう」って気づいたんです。

 

これは、精神的にもとても大きな変化でしたね。またニュースの現場に戻ることにしました。

 

── その後は、「辞めたい」と思うことはなかったのでしょうか?

 

安藤さん:
一度もなかったですね。一度現場を離れてみて「あぁ、私はこの仕事が好きなんだ」と、改めて感じました。

 

学生のころは、何かあっても「だってバイトだし」「私、偶然やってるだけだもん」と言ったエクスキューズ(言い訳)があったかもしれません。しかし一度休んで、気持ちを切り替えたことで、自分の仕事の向き合い方が大きく変わったような気がします。

 

PROFILE 安藤優子さん

キャスター、ジャーナリスト、社会学者。フィリピンの米軍基地潜入ルポ、アメリカ日系一世の記録などの海外取材レポートを担当。フジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」などでMCを務めた。近著は『自民党の女性認識──「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)。


取材・文/間野由利子 撮影/坂脇卓也