毎年1万人以上の女性が罹患し、年間約2900人が命を落としているという「子宮頸がん」(※1)。厚生労働省では、昨年11月にHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種の積極的勧奨の再開を決定し、今年4月から個別の勧奨(個別に接種のお知らせを送る取り組み)が再スタートしました。
ところが現状は、「女性特有のがんだとは認識しているけれど、そもそもどんな病気なのか、よくわからない…」という人が多いのが実情。
あなたはどうでしょう?「子宮頸がん」の現状と、がんを予防するワクチン接種や検診の意義を理解していますか?これは大切なわが子やご自身を守るために、今母親がぜひ知っておくべきことなんです。
若年層に増えている子宮頸がん「マザーキラー」の異名も
“がん”というと、高齢になるほど発症リスクが高まる病気と思われがち。そのため、子宮のがんと聞いても、“まだ若い自分にはあまり関係ないはず”と、他人事と捉えてしまっている人や、“コンドームをつけていれば予防できるんでしょ?”などと、間違った知識を持っている人が少なくありません。
そもそも子宮がんには、子宮の奥にできる「子宮体がん」と、入口近辺にできる「子宮頸がん」の2種類があります。子宮体がんの発症年齢が主に50代以降なのに対し、子宮頸がんの発症率が高いのが、20代後半から40代の若年層。ちょうど妊娠・出産や子育ての時期と重なることから、「マザーキラー」という異名で呼ばれています。
実際、結婚前に罹患して妊娠が難しくなってしまった例や、小さなお子さんを残して亡くなるママも…。
「子宮頸がん」は、おもにHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因とされています。このHPVは、性交渉によって感染し、性体験のある女性の84.6%が“一生に一度は感染を経験する”と報告(※2)されているほど、ごくありふれたウイルス。もし感染したとしても、90%以上の場合、2年以内に自然に排除されます(※3)。
ただ、なかには稀にがん化してしまうケースも。毎年1万人以上の女性が罹患し、年間約2900人もが命を落としている(※1)ことをまず知っておきましょう。
子宮頸がんには「ワクチン」と「検診」の2つの予防方法がある
ただ、実は「子宮頸がん」には2つの予防方法があります。そのために有効な対策が、「10代からのワクチン接種による感染予防」と「20歳を過ぎたら定期検診による早期発見」です。
1次予防となるのが、「HPVワクチンの接種」。子宮頸がんの原因となるHPVへの感染を防ぐ予防接種です。接種自体は9歳から可能ですが、定期接種の対象者となる小学校6年生から高校1年生相当までの女子は、無料で接種できます。
十分な予防効果を得るには、同じワクチンを3回接種すること、さらに、性交渉を経験する“セクシャルデビュー”前にワクチン接種を行うのがもっとも望ましいとされています。
とはいえ、たとえセクシャルデビュー後の接種であっても、まだワクチンで守れるHPV型に感染していなければ、予防効果が期待できます。また、ワクチンで守れるHPV型の一部に感染していたとしても、感染していない他の型に対しては予防の効果が期待できます。
また、HPVワクチン接種だけでは、すべての子宮頸がんを防ぐことは難しいため、2次予防として、20歳を過ぎたら2年に1回の定期的な検診を受けて早期発見に繋げることが大切。
これらの2つを着実に行うことにより、子宮頸がんを未然に防げる可能性が高まります。
※ワクチンは含有する型に対して有効です。また、すべてのがんを防ぐわけではありません。
日本は諸外国にくらべて大幅に遅れをとっている
子宮頸がんのワクチン接種は世界各国で行われており、接種率が80%を上回る国も少なくありません。対して、日本のワクチン接種率はわずか1.9%ととりわけ低く(※4)、諸外国で70%を超えている検診の受診率も44%と低迷しており(※5)、世界のなかでもずいぶん遅れをとっているのが実情です。
その背景には、過去約9年間にわたりワクチン接種の積極的な勧奨がストップしていたことが大きく影響しています。
そもそも日本では、2013年4月から子宮頸がんの定期接種がスタートしました。ところが、ワクチン接種後に副反応が疑われる多様な症状が見られたことから、開始からわずか2か月ほどで積極的勧奨が差し控えられることに。
しかしその後、安全性に対する調査を重ねた結果、専門家の会議で、安全性について特別な心配が認められないことがあらためて確認されました(※3)。
厚生労働省は、昨年11月にHPVワクチンの定期接種の積極的勧奨の再開を決定。今年4月からは、約9年ぶりに個別の勧奨(接種対象者に接種のお知らせを送る取り組み)が再スタートしています。
各自治体によって対応に若干のバラつきがあるものの、現在低迷しているワクチン接種率も、今後は徐々に上昇していくとみられています。
子どもの未来のために今、「子宮頸がん予防」を考えてほしい
“HPVワクチン定期接種の空白期間に子どもが対象年齢を迎えていた” “ワクチンの存在自体を知らなかった”──さまざまな理由から接種の機会を逃してしまった人には、公費の助成でワクチン接種が受けられる「キャッチアップ接種」の制度があります。
次の2つを満たす方が、対象となります。
①平成9年度生まれ〜平成17年度生まれまで(誕生日が1997年4月2日〜2006年4月1日)の女性
②過去にHPVワクチンの合計3回の接種を完了していない
※このほか、平成18・19年度生まれの女性は、通常の接種対象(小学校6年生から高校1年生相当)の年齢を超えても、令和7(2025)年3月末まで接種できます。
さらに、子宮頸がんの検診は自治体からの助成もあり、受診しやすい環境が整っています。
ワクチン定期接種の対象年齢(小学校6年生から高校1年生相当)は、まだ親が健康や予防接種について一緒に考えてあげなくてはいけない年代。ですから、まずは女の子を持つ母親自身が、子宮頸がんやワクチン接種について正しい知識を身につけ、子どもに伝えていく必要があるでしょう。
セクシャルデビュー前にHPVワクチンを接種するのが最も効果的です。そのため、子宮頸がん予防について考えることを先延ばしするのは禁物です。
不安があれば、小児科や婦人科などの「かかりつけ医」に相談する、みずから情報をキャッチして知識をバージョンアップするなど、日頃から理解を深めておきたいもの。普段から、家庭内で“性”についてフラットに話せる環境をつくっておくことも、かけがえのない子どもの未来を守ることに繋がります。
子宮頸がん予防サイト「もっと守ろう.jp」では、子宮頸がんの詳しい情報や予防の知識について、イラスト等でわかりやすく解説。お子さんが定期接種の対象になっているかも簡単に確認できます。
また、子宮頸がん予防について相談できる近所の医療機関の検索も可能なので、相談できるかかりつけ医を探すのにも最適です。
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取材・文/西尾英子 取材協力・資料提供/MSD株式会社
(※1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録/厚生労働省人口動態統計)全国がん罹患データ(2016年~2018年)/全国がん死亡データ(1958年~2019年)
(※2)Chesson HW et al. Sex Transm Dis. 2014; 41: 660-664.
(※3)厚生労働省HP HPVワクチンに関するQ&A
(※4)厚生労働省 定期の予防接種実施者数
(※5)OECD.Stat Health Care Utilisation:Screening(Last updated on July 2 2021.)