繊細なタッチの絵柄と、育児中のママたちが共感するほのぼのエピソードが人気の漫画家・田辺ヒカリさん。優しい作風同様に、おっとりとした語り口に仕事や育児に対する真摯な態度がうかがえます。「仕事も趣味も漫画を描くこと」と話す田辺さんに、日々の創作活動で大切にしていることをお聞きしました。

SNSに投稿する漫画は趣味「誰かの息抜きになってほしい」

── SNSで発表されている漫画は、どんなタイミングで描かれているのでしょうか?

 

田辺さん:
仕事以外でも、趣味で絵を描くのが好きなんです。それを誰かに見てもらえたら嬉しいし、共感してもらえたりしたら、もっと嬉しい。

 

自分がそうだったのですが、子どもが小さいときの息抜きって、SNSを見ることが多いと思うんです。自分の漫画やイラストが誰かに息抜きになったらいいなっていう気持ちが根底にあります。

田辺さんのイラスト
「落書き感覚で描いている」という日常のひとコマ。幸せが伝わってくる!

── 最近は、SNSで漫画を発信する方が増えました。読む側も描く側も息抜きになっているという感じでしょうか。

 

田辺さん:
まさにそうで、SNSで上げている漫画は、本業の合間の息抜きになっています。仕事が忙しければ忙しいほど、趣味の絵を描きたくなってしまうほどで(笑)。あとは面白いエピソードがあったら「書き留めておきたい」とつい思っちゃうんです。

 

でもSNSに連日たくさん漫画をアップしている投稿などを見ると、「子どもがこんなに小さいのに、いつ描いているのかな 」って。根本的なバイタリティが違うんだと思うんですけど、すごいな、自分には真似できないなと思います。

仕事はできる範囲のキャパシティで「絶対に無理しない主義」

── 育児中の限られた時間で、仕事をするうえで気をつけていることはありますか?

 

田辺さん:
仕事の着手は「早め早め」を心がけています。やっぱり子どもは突発的に体調が悪くなったりすると、予定通りにいかなくなるので…。時間があるときも、ネタ帳にエピソードをストックしておいて、仕事にすぐ取り掛かれるようにしていますね。

 

── 普段から、余裕を持ったスケジュール管理を意識しているんですね。

 

田辺さん:
私は描くのが遅いし、自分のキャパが狭いことがわかっているんですよね。以前、仕事の依頼を受けすぎて、関係各所にご迷惑をかけてしまったことがあって。長く担当してくれている編集の方からいただく仕事は受けていますが、基本的には新規のお仕事は心苦しいけれど、お断りすることが多いです。

 

── そうやって自分の仕事量を決めるのも、勇気がいることだと思います。

 

田辺さん:
私の場合は、仕事で精神的にいっぱいいっぱいになって、そのイライラを家族にぶつけてしまうのが一番嫌なんです。「たくさん仕事がしたい」という気持ちはありますが、それよりも仕事で余裕がなくなったときに、負の気持ちを家族にぶつけてしまうほうが嫌なんです。

 

それは私が未熟だからなので、そういうイライラもちゃんと我慢して、切り分けられる人もいると思うんですけど…。それが難しいってわかっているので、自分のキャパシティを超える前に仕事量をここでセーブしようっていうのは決めています。

 

田辺さんのイラスト
「街で偶然会った人が誰か思い出せない…!」のひとコマ。SNSにアップされる田辺さんの育児漫画にはいつも多くの共感が集まる

── 育児と仕事の両立は、どんな仕事の人もみんな悩みを抱えていそうです。

 

田辺さん:
会社勤めの方もそうでしょうけれど、漫画家って特殊な職業で、一度描けなくなるとずっと描けなくなる人もいて…。そうならないように、自分でちゃんとコントロールしたいと思っていて。

 

私は「細く長く続ける」のが目標。だから長く続けるためには、セーブするのも大事だと思っています。