「育児に仕事にと毎日忙しい世代の女性ほど、自分の心のケアにまで手が回らないように思います」。オンラインカウンセリング事業を手がける株式会社cotree代表・西岡恵子さんは、そう語ります。10月10日の「世界メンタルヘルスデー」を前に、女性とメンタルヘルスの関係性について西岡さんに話をお聞きしました。

 

株式会社cotree代表・西岡恵子さん

心の不調がまず身体に出る人も

── 西岡さんはcotree代表としてメンタルヘルスケア領域で事業を展開されていますが、「心の不調」への向き合い方について、ここ数年の社会の変化をどのように感じていますか。

 

西岡さん:
コロナによる大きな生活変化や働き方の変化も重なり、家族の問題や仕事のストレス、職場や社会の人間関係など、さまざまな要因が複合的に組み合わさって生きづらさを感じている人が大勢いらっしゃる時代だな、と日々実感しています。

 

ストレスや心の不調は、目に見えないし、レントゲンで撮っても映りません。全体像を把握できないから自覚しづらいし、どのような対処法が合っているかも人によって違います。他の病気と異なり、「自分の中にある、悪い腫瘍だけ取り除けば劇的によくなる」というわけではないところに、心の不調の難しさがあります。

 

── 痛みや傷があれば病院へ行こうとも思えますが、心の不調は見えないからこそ放っておかれがちです。

 

西岡さん:
育児と仕事で忙しい女性に関して言うならば、「母親なんだから強くないと」「みんな大変なのが当たり前」という考え方で心に蓋をして、自分の感情と向き合わないままなんとなくやり過ごして毎日を送っている人も多いのではないでしょうか。

 

そうした日々の心への負荷が重なることで、身体に先に不調が出る人も多くいるんですよ。なんとなく呼吸がしづらい、頭痛が治らない、だるさが抜けない…そういった体の不調の原因が、心に由来しているケースもたくさんあると思います。

 

頭痛がずっと続くので内科に駆け込んだものの、処方された痛み止めだけでは改善されず、紹介されて行った精神科で過去のショックな出来事が原因であることがわかった、という人もいます。

 

心に不調を抱える人のイメージ(PIXTA)

心がすり切れそうなほど消耗しているのに、「いえ、私は大丈夫です」と頑張りすぎている女性が日本には多すぎると感じています。

 

だから「いかに本人に早いタイミングで“気づき”を与えられるかがより大事になってきている」と考えています。

感情を吐き出すことで心のケアを

── 育児や仕事に忙殺されて自分のことはあと回しという人は、性別を問わず多そうです。普段の生活で、自分の心をケアするためにできることはありますか。

 

西岡さん:
自分の気持ちを吐き出せる場があるだけでも、ずいぶん違うと思います。友達にちょっと愚痴を言って聞いてもらうだけでも、孤独を一瞬忘れられるし、気持ちがすっと楽になりますよね。そういう機会を意識的につくってみるのはやっぱり大切です。

 

もっと手軽な方法としては、SNSで今の自分の感情を素直に出してみる。自分の言葉に共感してくれる人が増えることで何か踏み出す一歩になったり、自分の投稿をあらためて見たりすることで、「私って今こんなにしんどいのか」と気づくきっかけにもなりますから。

 

ただ、SNSは多様な価値観がぶつかる場だからこそ、本音を出せない人や、実名でやっているからセーブしてしまう人もいますよね。

 

そうした場合は、他人の目を気にしなくていい感情の吐き出し場を持つことが有効だと思います。スマホのメモアプリやノートに文章でざっと書き出すだけでも、気持ちが整理されてちょっと思考が上向きになるかもしれません。

 

私の場合は、絵を描くのが好きなんですね。ボールペンでババッと描くこともあれば、絵の具で色を塗って描くこともあるのですが、その日の心の状態で筆の濃さなんかが全然違ってくるんです。

     

ストレスで疲れているときは毒々しい色の組み合わせを無意識にしてしまうとか、描いた絵から自分の今の心の素直な状態が見えてくるのが面白いなぁと感じます。