「本番10分前ギリギリまで注意を受けたこともあります」と語るのは、元・宝塚歌劇団の遼河はるひさん。主役を経験した後も「オーラがない」と言われ、稽古中に立ちすくんでしまったことも。その後、どのように向き合って今に至るのでしょうか(全4回中の2回)。
スターたるもの光を放て
── 宝塚に入られてから、先輩や友達の言葉で印象的な言葉はありますか?
遼河さん:「スターとしての圧が感じられない」と言われました。
── なかなかシビアな言葉ですね。
遼河さん:ショーでスターが銀橋(ぎんきょう=舞台前面にあるオーケストラボックスと客席の間にある弧を描いたようなカーブしているところ)に並ぶ場面、稽古場で振りつけをしていたら、隣にいる上級生から、「隣からスターとしての圧が感じられないよ」って言われて。
私からしたら、まだ振りつけを教わったばかりだし、と一瞬思いましたよ。でも、いや違う。やっぱりスターたるもの、振りつけの時点でスターとしてのオーラがないといけない存在。光を放たなきゃいけないんだなってハッとしました。
── 今回の取材で、我々取材陣が遼河さんに「初めまして」のご挨拶をさせていただいたとき、素人目ですが、すごいオーラを感じましたが…。
遼河さん:ありがとうございます(笑)。
── スターとしての圧って徐々に身につくものなんでしょうか?
遼河さん:どうなんでしょう。下級生の頃は、舞台に立っても「上級生の姿を見て学ばせてもらおう」とか、「まだ下級生だから」と少し甘えのような気持ちがあったのかもしれません。でも、本来舞台に立たせてもらっている時点で、もっとオーラを発してないとダメなんですよね。
また新人公演で初めて主役を演じた、『鳳凰伝』という舞台の幕明けで、まずみんなが一斉に登場して、その後に私がみんなに迎えられながらひとりで登場するという流れがあったんです。
でも稽古1日目、舞台中央まで進んで、その場で立ち方がわからなくなってしまったんですよね。
── 立ち方がわからなくなった…?
遼河さん:華やかな衣装を着て、みんなに迎えられて舞台に立つんです。舞台のセンターでただ「立つ」という状態が、どうしたらいいのかわからなかったんですよ。
振りがあるとか、何か動きがあったらその通りにやったと思います。でもそうじゃない。「え?立つってどうするの!?」みたいな。
でも、冷静に考えたらそうなんです。主役だったら、立ってるだけで存在感を出さないといけないんです。立ってるだけでも「すごい!」って圧倒させないといけないんですよね。
先生からも「まずは、真ん中で立てるようになれ」と言われたのをすごく覚えています。
── 輝きを放つには、経験も積み重なっていくのでしょうか。
遼河さん:宝塚は、やっぱりお客様に育てられているところが多いですよね。銀橋に立つと、すぐ目の前にお客さんがいる。私たちを真っすぐ観てくださる。そこで、いかに自分がアピールするかが大事なんです。そのときはファンじゃないお客さんも、目が合ったらファンになってくれることはありますし。
そうやって、どうアピールするか考えていくうちに、オーラを発するようになったり、どんな笑顔がいいか、どんなふうにしたら輝きを放つのか。徐々に身についていくというか。先輩からも、鏡を見て研究しなさいと教わりました。
開演10分前に注意を受けて
── ところで、経験を積みながらも途中で「しんどいな」と思うようなことはありましたか?
遼河さん:基本、あんまり落ち込まないんですよね。それに、開演10分前に注意を受けても、すぐに立ち直らないと、舞台が始まっちゃうじゃないですか。
── 開演10分前に注意を受けることがあるんですか?
遼河さん:ありますよ。ギリギリまで自分の失敗で上級生に注意を受けることも。でも、そんな状況でも、すぐに気持ちを切り替えないとお客さんの前で笑えないので。
── かなり鍛えられそうですね。
遼河さん:舞台の開始間際に落ち込むことがあったとき。私はトイレに駆け込んで、5秒くらい一瞬どん底までいくんです。そこから無理やり自分で「まあ、いっか」まで持っていっていましたね。
とにかく切り替える。「これでシュンとしていたら、引きずられてしまう!」って。
それに、マイナスに引っ張られない、ということもすごく意識していました。ずっとネガティブな状態でいたら、舞台でセリフを忘れたり、振りを間違えるという二次災害が起きやすいですから。
PROFILE 遼河はるひさん
りょうがはるひ。1976年生まれ。元宝塚歌劇団、女優、タレント。1994年、月組の男役として人気を博す。2015年に昼の連続ドラマ『癒し屋キリコの約束』に主演したほか、タレントとしても多くのバラエティで活躍している。
取材・文/ふくだりょうこ 撮影/阿部章仁