昨年の東京五輪では、57キロ級で見事金メダルを獲得した金城(旧姓・川井)梨紗子選手。プライベートでは五輪直後に結婚、今年5月には長女を出産。現在は育児をしながら選手としての活動を続けています。「妊娠・出産を経てレスリングに対する気持ちが変わっていった」と話す金城選手に、これからの目標について聞きました(全3回中の3回目)。

東京五輪で引退しようと思っていた

── 東京五輪が終わったときは、どのような気持ちでしたか?


金城さん:
実は、オリンピックが終わった直後は、レスリングはもう綺麗さっぱり辞めようと思っていたんです。

 

── それはどうしてですか?


金城さん:
負けて終わるのが絶対に嫌だったので(笑)。オリンピックで勝てて引退できるならキリがいいなと思ったんです。決勝が終わった瞬間は、「これでレスリング人生終わりだな」って思っていました。

 

── そんな思いがあったとは…!そこから現役を続行を決断した理由は何だったのでしょうか?

 

金城さん:
夫が教員で、レスリング部の顧問をしているんです。その活動を見ていて、私も趣味でレスリングを続けたいな、なんて思っていました。ところが、オリンピックが終わってまもなく妊娠が判明して。嬉しかったのですが、オリンピックで優勝して気持ちが高揚しているタイミングで、突然「レスリングができない」状態になってしまったんです。

 

レスリングを取り上げられた状態になったことがきっかけで、「やっぱりレスリングがやりたい!」というふうに心が変わりました。もしかしたら妊娠がわかってなくて、普通に結婚しただけだったら、多分先日の合宿にも参加していなかったと思います。

育児はレスリングの練習より辛いかも

── レスリングの練習と育児、ズバリどちらが辛いと感じますか?

 

金城さん:
正直「育児のほうが断然辛い!」って思っていたこともあります。新生児の頃は授乳で全然寝られなくて、「想像以上に辛い…」ってしょっちゅう言っていました。里帰り出産をしたんですけど、「もう実家から出たくない。離れたくない」という感じで、自宅に帰るのが嫌で仕方なかったほどです。

 

SNSで出産報告をした際に投稿されたお子さんの写真
生まれたてほやほやのお子さんの様子。SNSには多くの祝福の声が寄せられた

── レスリングのトレーニングや代表争いなど、壮絶な経験をされた金城選手にとっても、育児は未知の領域だったのですね。

 

金城さん:
わけもわからず泣かれたときには、メンタルもやられましたね…。育児ってこんなに大変なのかと…自分の努力だけではどうにかなるものではないですから。

 

── この記事を読んでいる育児経験者も、オリンピックで金メダルを獲ったアスリートでさえ、育児では皆と同じように辛い思いをするのか!と感慨深いと思います(笑)。

 

金城さん:
私は三姉妹なのですが、うちのお母さんは3人も産んだんだ…スゴい!って今さらながら尊敬します。自分が出産するまでは、育児の大変さなんて考えたこともなくて。世の中のお母さんって本当スゴいです。

 

赤ちゃんを抱っこ紐で抱えて買い物をしているお母さんなんて、今までもしょっちゅう見ていたはずなのに、今は見かけると「何か私に手伝えることはないか」って思ってしまいます(笑)。

 

── アスリートならきっと、長時間の抱っこ紐も余裕なのかな?などと思っていたのですが。

 

金城さん:
いえいえ、全然!抱っこ紐って同じ姿勢で体が固まっちゃうじゃないですか。私でももちろん辛いですよ。授乳も同じポーズだから、首や肩まわりがガチガチになっちゃうし…。

 

── やっぱり育児中のママと同じ悩みを抱えているのですね…。

 

金城さん:
抱っこ紐で買い物をしているときに、うっかりお釣りを落としちゃったことがあったんです。屈めなくて困っていたら、すぐ近くにいたおばさまが拾ってくださった。レジでも、抱っこ紐でいると「詰めちゃいますね」と代わりにやってくださったり…。

 

自分も困っている人がいたら、それに気づいて手を差し伸べられる人でありたいなって思います。出産と育児を経験していくなかで、目線が変わりましたね。