“好きな作品”を上映できるわけではない理由

—— これまで物件探しや法律、工事の話を主にうかがいましたが、開業までの流れのなかで、意外に苦労されたことは?

 

岡村さん:
実は物件探しや工事ではなく、作品の買いつけが予想外に大変でした。

 

まず、作品の配給会社や制作元など権利を持っているところと交渉する必要があるのですが、古い作品だとその権利元を探し出すのにかなり時間がかかります。

 

そして、お金を払えば希望の作品を上映できるとも限らないんです。

 

映画産業は、つてや紹介で成り立つ“信用の世界”。新入りの独立系映画館は実績も信用もないので、交渉に応じてもらうまでがひと苦労でした。

 

収益も折半なので、「49席のミニシアターだと採算性がちょっと」と言われて、思った以上に条件交渉が難航しました。

 

館内の天井高や換気設備についてこだわりを話す岡村さん

でも、映画館としては上映作品にはこだわりたい。そこで、初年度の映画上映権買いつけ予算約1000万円のうち、半分についてクラウドファンディングを行っています。

 

当社は決して大きな企業ではありませんので、1億円近くを費やして映画館を作るのは相当覚悟が必要な投資です。

 

開業後の運転資金については綿密な資金計画を立てていますが、満足いく上映作品を継続的に揃えるために、潜在的な映画好きな人たちに支援をよびかけています。

 

多くの映画ファンの方とつながる意味もこめているので、クラウドファンディングのリターンとして、鑑賞券やStrangerグッズをお送りしています。

 

映画館が開業したあかつきには、僕やスタッフがお待ちしていますので、ぜひ声をかけてください。

※この記事は2022年7月末時点の情報に基づいて執筆しています

 

PROFILE 岡村忠征さん

映画館Strangerチーフディレクター。広島県から上京後10年間映画産業にたずさわる。2011年、ブランディングデザインのアート&サイエンス株式会社設立。

取材・文/岡本聡子 撮影/新井加代子 画像提供/岡村忠征