結婚して「家族」と認められるのはいいけれど、それを盾にこき使われるのはたまりません。でも「いい嫁」であろうとすると、周囲の性格によっては、そんなふうになりがちです。断り切れない、でもモヤモヤが募る…そんな女性がいます。
ボタンのかけ違いは“子ども”を産むかどうかから
「もう結婚しなくてもいいかも」と思っていたとき、ナオコさん(39歳、仮名=以下同)がスポーツジムで出会ったのが15歳年上の男性でした。
最初は友だちとしか思えなかったのに、1年かけてつきあっていくうちに、いろいろなことに対する彼の的確なアドバイスに感心するようになりました。
「当時、転職するか迷っていたんです。同業他社からの誘いがあって。ただ年俸制の職場なのが不安で。
彼に相談したら、『給料の件もきちんと契約書を交わして。どんな細かいことも契約書に盛り込んだほうがいいよ』って。
その結果、とてもいい転職ができました。そのとき、彼は私にとって大事な人だと感じたんです」
そこから一気に距離が縮まり、出会って1年半後には結婚。当時、35歳のナオコさんの夫は50歳でした。
夫は長男ですが、義父母に同居の意思がなく、義実家から車で10分の距離に居を構えました。
「最初の1年くらいはほとんど義実家に行くこともなく、ふたりで仕事中心の生活をしていました。
私は子どもが欲しいと思っていたけど、彼にはあまりその意志がなさそうだったのが気になり、ある日尋ねたら、『この年で子どもを持ったら、子どもが20歳のとき、オレは70を超える。ムリでしょ』って」
結婚するときナオコさんは子どもが欲しいと意思表示をしていたのに…。そのうち、義母からときどき、連絡が来るようになったといいます。
「『明日、空いてる?』って。私はコロナ禍で在宅ワークなのを知って、『ちょっとの時間でいいから、うちに来てくれないかしら?』と。
しかたがないから、義実家に行きましたよ。そうしたら『今から美容院に連れてって』と。そのために呼んだの?と。いつも美容院は自転車で行っているはずなのに…」
体調が悪いわけでもないのに…と思いつつも、つい義母を車で送ってしまったナオコさん。
「すぐ終わるから車の中で待っていてね」と言われ、義母が戻ってきたのは1時間後。
「これは困ると、その晩、夫に言うと『たいした時間じゃないでしょ。連れてってやってよ』と軽く言われました」
「私は家政婦さんではない」と言いたいけれど…
その後、夫も徐々に彼女にいろいろなことを頼むようになっていきました。
「親戚の子に入学祝いを送っておいて」とか「忘れ物をしたから会社まで持ってきて」とか。“子どもか!”と、突っ込みたくなる頼みごとばかりです。
「最近では、義父が転んで足首をケガしたから来てと言われて…。行ってみたら、軽い捻挫。自力でも歩けるんです。義母も元気な様子。
なのに、『今日はお父さんが料理してくれるはずなのに、こんなだからあなた、お願い』と炊事を任されて。
準備だけして帰ろうとしたら、『あと片づけもお願いね。あなたも食べていいから』と」
そこで怒って帰ってしまえばいいのに、それができないのが“私の弱いところ”とナオコさんは言います。結局、いつも言いなりになって、あとからモヤモヤが募っていくのだそう。
「振り返れば、結婚した当初に義母が『うちの嫁です。よろしく』と連呼しながら近所の人たちに紹介していたとき、うれしい半面、違和感もあったんですよね。
その違和感がこういう形になって的中しているのは、どうも納得ができないんです」
徐々に取り込まれていった感じがするのと、最初から私は家政婦代わりとしか思われていなかったのか、とナオコさんは心乱れるといいます。
「友人に言ったら、『お人よしすぎる。きっぱり断るか、離婚してもいいんだよって』と言われて。理屈ではわかるんですが、いざとなると言えなくて」
最近は週のうち3日は会社に出勤していますが、テレワークの2日はやはり「こき使われている」そう。
自分の我慢の限界がくるまで、“この状態に耐えるしかないのかも”と、ナオコさんは少し諦め顔でした。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里
※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。