人事担当者として現代のニーズに沿った働き方を模索する中でみつけた「おてつたび」

── それは「おてつたび」の旅人にとって、とても心強いでしょうね。「おてつたび」の旅人を受け入れようと思われたきっかけについて教えていただけますでしょうか。

 

松原さん:
お休みの日にたまたまテレビ番組を見ていたら「おてつたび」さんの取り組みが放送されていまして、そこで初めて知ったんです。

 

テレビには、大学生が昼間はオンライン授業を受けたり観光をしたりしながら、夕方から受け入れ事業者のもとでお手伝いをしている姿が映っていました。

 

人事担当者として現代のニーズに沿った働き方を模索していく中で、こんな風にあくせく働くだけではなく、楽しみながら働けるライフスタイルがあるのかと衝撃を受けました。

 

うちにはじめてくる方たちに、まちを観光をしてもらいながら、宿やまちの魅力をSNSで発信してもらえたらとても嬉しいなと思いましたね。

 

その後、愛知県にある私たちのグループ館のお宿がおてつたびさんの受け入れをしていることを知り、「受け入れて本当に良かった」という声を聞いたんです。

 

そこで、私たちも都会から来る方にとっては非日常な雰囲気の中でぜひお手伝いをしていただき、お手伝いをしてくださった方から私どものお宿や地域の魅力について直接うかがうことで、今後のお客様の集客につなげていくことを期待して受け入れを始めました。

料理をセットするおてつたびスタッフ

人手解消不足だけじゃない!旅人によって新たなアイデアが生まれる

── 繁忙期の「人手解消不足」という視点で受け入れたわけではなかったのですね。実際に受け入れてみて、どのようなメリットがありますでしょうか。

 

松原さん:
そうですね。「人手解消不足」という点で助かっている点もありますが、私自身としては「人手不足解消」が大きな目的ではありません。

 

おてつたびの旅人の皆さんにとても助けられているので、受け入れるメリットはたくさんあります。まず、受け入れることにより、私たちスタッフが初心にかえりあらためて頑張ることができるんです。

 

また、ここは本当に山の中で特に大きな観光地ではないところなのに、みなさんここの生活に満足いただいて、地元の観光スポットや宿の温泉の魅力を私たち以上に感じ取ってくださり、楽しんでいらっしゃいます。

 

おてつたびスタッフに説明する松原さん(左)

「初めての方はそんなポイントにこんな喜びを見つけてくれるんだ」とヒントを得て、今後は地元の観光協会とも協力しながら「宿泊と地元観光を盛り込んだプラン」を宿泊者様に提供できないかと考えています。

 

受け入れたことで、人手解消不足だけでなく、新たなアイデアが生まれるんです。

 

── おてつたびの旅人を受け入れることで、宿や地元観光の新たなプランをつくるきっかけになる可能性があるんですね。

 

松原さん:
そうですね。私は生まれも育ちもここ富山県で、この宿にも子どもの頃から来ていて良さを知っています。

 

ただ、初めて来た人はこの宿の温泉をどう思うのだろうか。山の中の暮らしや、まちの観光スポットについてどんな感情を抱くのだろうかということは、今まで直接聞いたことがありませんでした。

 

特に若い方たちは、この何もない山の中の暮らしをどう思うんだろうと正直不安に思っていたんです。そんな不安を払しょくしてくださったのが「おてつたび」の旅人のみなさんだったんです。

 

お仕事がない時に町に観光に行かれたみなさんに、「どうだった?今日は何してきたの?」などと話を聞くと、私たちが知らなかった新たな魅力をみなさんが見つけてきてくれているんです。

 

雰囲気のある近くの駅

年代も環境も違うのでみなさんそれぞれに見るポイントが違い、同じスポットに行って、同じことをしても、それぞれに受け取ってくる感情が違います。それがまた面白くて新たな発見をいただいています。

 

── 繁忙期に短期アルバイトを雇うこととの違いはどこでしょうか?

 

松原さん:
そうですね。いちばんの違いは、おてつたびの旅人の皆さんは目的を持ってこられているという点です。現在、沢山の方に応募いただいて、こちらから人を選ばなくてはいけないことが申し訳ないほどです。

 

でもみなさん、この土地にあるこの宿で何をしたいかが明確なんです。観光もしたい。お風呂も入ってみたい。おもてなしについてもしっかりと学びたい。そんな想いが伝わってきます。

 

実際一緒に働いてみても、モチベーションが違います。私たちも、忙しいからといってアルバイトを募っていたときとは気持ちがまた違く、刺激をもらっています。

 

 

「一時的な人手不足の解消だけが大きな目的ではありません。働き方改革のひとつだと思っています」と話す松原さんの言葉が印象的でした。

取材・文/渡部直子 写真提供/松原彩子さん