フジテレビ退社後、今年の4月から吉本興業に所属している久代萌美さん。「お笑いを見る目が変わった」と話す久代さんに、お笑い事務所に所属するアナウンサーとして感じることや尊敬する人について伺いました(全3回中の2回)。
局アナ退職から、吉本興業に所属するまで
── フジテレビを退職した理由はなんでしたか。
久代さん:もともと報道志望で入社したのですが、局アナとしてアナウンサーをまっとうするとずっと思っていました。でも入社からちょうど10年のタイミングで、さらなる成長をしたいという気持ちが生まれて。結婚したこともあり、ここで1回、会社員を卒業して自分の責任で新しい道を開拓していこうと思いました。
女性って30代にいろいろな節目を迎える方が多いですよね。周りの友人たちも転職や結婚、出産などを経験していて。それぞれに大きな決断をしている姿を見て、私も新しいことに挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。
── その「新しい道」として、吉本興業を選んだのはなぜですか。
久代さん:一緒にお仕事をさせていただいていた吉本興業の芸人さんの影響がすごく大きいです。明石家さんまさんや、今田耕司さんをはじめ、たくさんの方とご一緒するなかで、知っている方がいるところに行ったら安心だと思って入りました。
── 吉本興業に所属する民放テレビ出身アナウンサーの第1号となったそうですね。
久代さん:人で選んで事務所に入ったので、いざ入ってみてから「そういえばアナウンサーは他にいないけど、私これからどうなるんだろう。タレントとして仕事をしていくのかな」という漠然とした不安はありました。
でも、私の資格のようなものはアナウンサーなので、「タレントではなくアナウンサーとして活動したい」と話したら、事務所のホームページにアナウンサーとしてのカテゴリーを作ってくださって。すごく嬉しかったです。
「お笑いに強い人」と見られることも
── 事務所から、こういう方向でいきましょうと言われることはありますか。
久代さん:それが、まったくないんです。すべて私のしたいようにさせてもらっています。
── では久代さんご本人が、「吉本興業に所属しているから」と思って仕事をすることはありますか。
久代さん:それはすごくあります。私はアナウンサーだという気持ちで入ってはいますが、やっぱりイメージが浸透しているので「お笑いに強い人」という先入観で見られることは多いです。「面白いことできるでしょ」とか「面白いこと言ってください」と言われることもありますし、見えない圧で感じることもあります。
看板に泥を塗るじゃないですけど、「吉本興業なのに面白くなかったら…」と申し訳ない気持ちになります。今は“お笑いとは”というものを気にして番組を研究するようになりました。「こういうとき、芸人さんはどう返しているのか」とか、これまでとは違う目で見ていますね。
── 現在はバラエティの仕事が多いのでしょうか?
久代さん:バラエティ番組への出演のほかに、イベントの司会、ナレーションや雑誌の取材なども受けています。やはり多いのはバラエティ番組への出演で、9割くらいを占めています。フジテレビにいた頃はバラエティ番組と情報番組が半々くらいでした。
アナウンサーとしてやりがいがあるのは情報や報道番組なのですが、次はもっとこうしたいと思えるのがバラエティ番組です。自分がもともと持っていない要素がたくさんあって正解がないので、成長する機会を与えてもらっていると思います。
── これまで出演した番組で特に印象深いものはなんですか?
久代さん:フジテレビ時代に担当させてもらっていた「さんまのお笑い向上委員会」です。これまででいちばん長く担当した番組で、スタートから携わっていたので、私のイメージにもなったと言ってくださる方も多いです。
でも、最初から最後まで自分の殻は破れなかったと思って、少し後悔もしているんです。もういち段階、上にいっていたらもっと違う世界が広がっていたのかなと思うこともあって。
ネプチューンの堀内健さんとコントをするときも、恥ずかしさから、全力で振りきってすることができなかったんです。出演者の方は「それがクッシーの良さだよ」とか「個性」だと言ってくださっていたのですが、できない側の人間からすると、振りきれている人はかっこよく見えました。
── 相手は芸人さんです(笑)!
久代さん:そうなんですけど、同じレベルでまではいけなくても、そこに追いつくくらいの殻の破り方ができたら…とずっと思っていました。でも当時は会社員だったので、アナウンサーとしては出過ぎてもいけないと思いつつ、葛藤はありました。
尊敬する芸人は…
── 芸人の方と仕事をする機会が多いと思いますが、尊敬する方はどなたですか。
久代さん:たくさんいますが、ダウンタウンの浜田雅功さんはやっぱりすごいと思っていて、毎回、技を盗もうとよく観察させてもらっています。浜田さんの声の出し方ひとつで番組がガラッと切り替わるんです。
よく声が大きいと言われていますけど、ただ大きいだけじゃなく、ちょうどいいときにちょうどいい大きさで出すので次に転換できますし、入るタイミングも絶妙。笑いが盛り上がっているところを邪魔せず、でも引きすぎていないところで次に行く。
浜田さんの大きな声は必要な声量で、あれくらい出さないと聞こえないくらい現場が盛り上がっています。アナウンサーだとあそこまで強く割って入れないので埋もれてしまって。話の切りどころや間をよくわかっていらっしゃるからこそ、できることだと思っています。
── 最近は、芸人の方がアナウンサーのように番組のMCをすることも当たり前になっていますね。
久代さん:アナウンサーと芸人さんは似ているところもありますし、どちらも共通して空気を読むというスペシャリストだと感じます。芸人さんは面白いことを言うだけではなく、トークや回しの技術も持っているので、そういう意味ではアナウンサーは敵わないと思ってしまいます。
グイグイいくことも、聞いて引き取ることもできるし、いろいろな技術を持っています。難しい内容も、「わからない」を武器にして、視聴者を代表して聞くという側にも回れます。テレビにとって芸人さんは本当に必要なポジションだと思っています。
PROFILE 久代萌美さん
1989年東京都生まれ。首都大学東京卒業後、2012年、フジテレビにアナウンサーとして入社。「さんまのお笑い向上委員会」や「ワイドナショー」など主にバラエティ番組で活躍。2022年4月から吉本興業にアナウンサーとして所属し活躍中。
取材・文/内橋明日香 写真提供/久代萌美、吉本興業