その職場の常識は「法律違反」かもしれない

── 法知識は、女性が働くうえでも役立ちますね。

 

海老澤さん:
女性は、非正規雇用の割合が多く、立場が不安定であることから、理不尽と感じながらも仕事を続けざるを得ないケースも見られます。セクハラやパワハラ、マタハラなどのハラスメント被害も深刻ですよね。

 

「職場の慣習だから」「みんなそうしてるから」とこれまで当然とされてきたルールが、実は法律的に問題があることも少なくありません。

 

たとえば、「従業員は始業前に制服に着替える」「始業前に朝会を行う」といったルールをよく聞きますが、制服への着替えや朝会が会社からの指示や規定などに基づいているなら、その時間は労働時間に当たります。つまり、会社はその時間分の賃金を払わなければならないということ。

 

少しでも「おかしいな」と思ったら、公的な相談窓口を利用したり、専門家に相談してみるのがいいと思います。たとえば厚生労働省の電話相談(労働条件相談ほっとライン、こころほっとライン)、自治体の法律相談窓口、労働基準監督署などがあり、無料で相談できます。

 

勇気を出して相談することで、改善や解決の糸口が見つかるかもしれません。

子どもにも大人にも法律を学ぶ機会を

── 今は子どももSNSを使っていますから、最低限のルールは親子で勉強しておいたほうがよさそうですね。

 

海老澤さん:
そうですね。今の子どもたちはデジタルネイティブで、物心つく前からネット環境が生活の一部になっています。

 

何がよくて何が悪いのか、わからないままネットを使って、思わぬトラブルに巻き込まれることも多い。

 

大人による監視やフィルタリングなどももちろん重要ですが、ちゃんと理解するためには法律の知識が不可欠。学校や家庭など、小さいうちから著作権をはじめとした法律の知識に触れる機会があるといいなと思います。


── 大人も子どもも法に疎いままでいると、のちのち大きなトラブルに巻き込まれそうです…。

 

海老澤さん:
法律は私たちが生きていくためのルールで、法律を知ることは不可欠だと思います。法律の話は難しく捉えられがちですが、実はとても身近なもの。

 

たとえば労働に関する法律などは、社会に出て働いてみてはじめて自分ごととして実感できますよね。法律は、ある程度の社会経験を積むことでストンと理解できることが多い。大人になってその必要性を感じたときに、気軽に学びなおせる環境がとても大事だと感じています。

 

微力ながら、私もそうした環境づくりのお役に立てたらいいなと願っています。

 

PROFILE 海老澤美幸さん

弁護士・ファッションエディター。1975年生まれ、慶應義塾大学法学部卒。自治省(現・総務省)を経て、1999年宝島社に転職し、『SPRiNG』編集部所属。2003年渡英、スタイリストのマルコ・マティシック氏に師事。帰国後の2004年よりフリーランスのファッションエディターとして活動。2012年一橋大学法科大学院入学。2017年に弁護士登録。

取材・文/鷺島鈴香 本人写真提供/海老澤美幸