ポップに描くキャラクターでグッズ商品化も

── ポップは及川さん一人で作られているそうですね。毎日の更新は大変なのでは?

 

及川さん:
お店の定休日以外は、「絵本紹介」と「書店員の日常マンガ」をひとつずつ作って更新しています。ポップ作りを続けていくうちに「絵を描くこと」が好きになってきて、今では私の趣味のひとつ。

 

もちろん体調が悪い日や、休暇をもらっているときには更新をお休みすることもあります。でも、「好きなこと」を仕事にできて、本の売り上げにも貢献できているのであれば、こんなに嬉しいことはないです。

 

── ポップで登場するオリジナルキャクターの「きむねこ」も表情豊かでキュートです。

 

及川さん:
初めの頃は、作品の登場人物をイラスト化していたのですが、なかなか難しくて…。特に小説のポップを書くとき、登場人物の髪型、服装などをうまく表現できず、「それならば」とオリジナルキャラクターを作ってしまいました(笑)。木村書店の創業日が「昭和2年2月2日(ニャンニャンニャン)」ということで、ネコをモチーフにすることに。

 

ポップで描くイラストは、読んでいるときの私の表情や感情をそのまま表現していることが多いです。友人にオススメするような目線での言葉選びを大切にしています。

「わかる、わかる!」と共感を集めるイラストとキャッチが魅力

── イラストやポップ作成は独学で学ばれたとのことですが、参考にされたお店などはありましたか?

 

及川さん:
手描きポップを始めた頃は、ヴィレッジヴァンガードの店頭ポップを参考にすることがありました。それから「道の駅」もポップの良い勉強場所です。

 

たとえばネギ売り場には、農家さんの手書きのネギレシピなどの紙が置かれていて、「こう食べると美味しいんだよ」という情報がギュッと濃縮されています。

 

道の駅には、「美味しそう」「作ってみようかな」と商品に手を伸ばすきっかけがあちこちにあって、そのたびに「なぜ気になったんだろう」「なぜ足を止めさせてくれたんだろう」と考えるようにしていました。

 

──「きむねこ」のオリジナルグッズの商品化や、これまでのポップをまとめた『ポップの本』も出版されましたね。

 

及川さん:
ポップの制作を始めた当時は、ここまで広がりが持てるとは考えてもいませんでした。実は今、地元の新聞社から声をかけてもらって、Twitterに掲載している「書店員の日常」を再録した漫画本を出版する予定でいます。こちらは今秋発行を目標に、現在編集中です。

 

「木村書店でしか買えないものを作る」というのも、今後の販促の一貫にしていけたらと考えています。

店内のあちこちに散りばめられた「きむねこ」を探すのも楽しい

──「八戸といえば木村書店」と言える日もそう遠くなさそうですね!

 

及川さん:
うちだけでなく、地方書店はいつなくなるかわからない現状にあると思います。もちろん私も、新刊として読めない本に関しては電子書籍を利用しており、批判するつもりはありません。

 

ただ、「本を選ぶための選択肢」を長く残したいという気持ちでいます。ネットで購入するのも、店舗で手に取りながら選ぶのも、それぞれにメリットがあります。でも気がついたときには「実店舗がなくなっていた」というのはあまりにも寂しい。

 

普段、電子書籍で本を読まれている人も、ネット通販で本を買われている人も、たまには地元の書店に足を向けてほしいです。自発的に手を伸ばして選ぶことから、きっと思いも寄らない一冊との出会いがあるはず。その体験ごと、楽しんでほしいですね。

 

 

「まずは自分にできることから」と、コツコツと始まった及川さんのポップ制作。「ポップごと本を販売」というユニークな販売形式は、いつしか訪れる人の注目を集め、木村書店の個性を生み出してくれました。

 

「この店でしか得られない何か」を考え続ける及川さんの姿勢からは、地方書店が生き抜くためのヒントが隠されているように感じました。

取材・文/佐藤有香