死生観や教育観について改めて考えたい
では、お子さんの「人間はいつか死ぬのに、なぜ勉強をしなくてはいけないのか?」という問いに対する答えを考えていきましょう。親としては、「死ぬことを考えるから生きられる」という死生観に立ってお子さんに接するとよいのではないかと思います。
少し極端な例になりますが、江戸時代の武士論書『葉隠(はがくれ)』に「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という一節があります。これは忠義のために命を落とすことも覚悟しなければならないという武士の思想を表す言葉ですが、彼らは常に死を意識しながら生に全力を注いでいたということです。
現代でも「今日死んでも悔いのないように生きたい」とお考えになる方がいらっしゃいますよね。つまり、死に向き合うのは生きることを真剣に捉えることだと言えます。ご相談者様は、こうした死生観に立ち、「人はいつか死ぬからこそ、生きている時間をいかに豊かにするかが大事。そのためには、勉強し続けることは外せないんだよ」とお子さんに伝えてあげましょう。
食欲や睡眠欲などの動物的な欲はすぐに満たされるものであり、人はそれだけでは長期の視点での幸せは得られません。新しい世界を知り、自分ができることを見つけて深め、他者と影響を与え合って社会のなかで生きていくところに幸福感が生まれます。
その観点でいうと、学ぶ人のほうがはるかに大きな幸せを得られるでしょう。だから、生きている時間を豊かにするには勉強するしかないのです。お子さんには、そういった勉強の必要性とともに、「なぜ勉強してほしいというかと言うと、あなたに幸せでいてほしいからだよ」としっかり伝えてあげてください。
このように掘り下げていくと、ご相談者様も忙しい日々のなかで日常をなんとなく生きてしまっていることに気づかされるのではないでしょうか。哲学的な問いかけをしてくれるお子さんに感謝し、ご自身もこれまでどんな学びを得てきたかを振り返り、改めて今後どんな人生を送ろうとしているかを考えてみましょう。
そしてそれを話して聞かせてあげるなど、お子さんの成長に真剣に向き合ってあげてください。
また、これを機に、勉強とは何か、学校に通わせる意味とは何なのかということも今一度考え、ご家庭で大事にしたい教育観について確認していただきたいと思います。
PROFILE 小川大介さん
教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。
取材・構成/佐藤ちひろ