2020年度から学習指導要領が変わり、学校では「主体的・対話的で深い学び」の実現に向け、探究型の授業が増えつつあります。今回の相談者のように子どもの好奇心や探究心を尊重するご家庭も増えていますが、この流れの中で大きな問題も生じているようです。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生が、アドバイスします。
【Q】宿題をせず、自分のしたいことばかり…
小学校5年生の男の子の母です。息子は、小学校に入学してから、学校の宿題をやりません。年次が上がったら取り組めるようになるだろうと思っていたのですが、その逆で、年次が上がるにつれてやらなくなり、最近はまったく宿題をしなくなりました。
好奇心旺盛な子で、常に何か自分で好きなことを見つけて取り組める子です。そのため、家に帰ると、自分がやりたいことがいっぱいあって「宿題に費やす時間がない」といいます。当然、学校のテストの点数はボロボロです。中学に上がったら困るだろうなと心配しています。どうしたら良いでしょうか?
先生に任せていればよかった時代は過ぎ去った
好奇心が旺盛なのはとても素晴らしいことだと思います。「好奇心を伸ばす」ことをうたった習い事も近年、増えています。ただ、残念ながら、現在の日本の教育システムと「好奇心を伸ばすこと」は共存することは難しいのが実情です。
ご相談者さまにはまず、日本の教育現場の事情を理解していただくことが重要だと思います。
一律一斉型の学びを行っていた20年前と異なり、現在は、子ども一人ひとりの興味・関心を尊重し、主体的に探究する学びを重視する方向へと変わっています。
これは時代や世界の流れにも合っているのですが、探究の学びを大事にするということは、各家庭の親御さんが学ぶ技術やその必要性を子どもに納得させなければいけないということ。
つまり、先生に任せていれば何とかなる時代は過ぎ去り、今は学校から家庭に学びの基盤のボールが投げられているのです。ここの認識が国民全体に欠けていることが、今の日本の問題点であると感じます。ご相談者さまには、まずは大人同士の役割分担のコンセンサスが取れていないこの構造を理解していただく必要があります。
「やりたいことが多すぎて宿題をする時間がない」という、お子さんの心の豊かさはとても素敵です。しかし、大学進学が基本路線とされている今の日本の環境においては、今後非常に困ることが予想されます。ペーパーテストができないと、高校受験に必要な内申点を取ることも入試をパスすることも難しく、チャンスを得られないからです。
国内大への進学という基本路線を期待されているのなら、今から急いで学習の基本技術と訓練の習慣を身につけさせる必要があります。これは本来、小学校1年生から習得すべき力です。
何とか中学に入るまでに「好きかどうかは関係なく、やらなければいけないことはやるんだ」という納得感を持てるようにしてあげなければいけません。残念ながら勉強は学年が上がれば自動的にできるようになるというものではありません。勉強の仕方は大人が教えなければいけないのです。
現在すでに小学校5年生とのことなので、親御さんの力だけでは難しいかもしれません。学習塾や家庭教師など第三者の力も借りながら学習の基本を教えてあげることをおすすめします。お子さんの話を聞きながら、一緒に実行可能な学習方法を考えてくれる人を選んであげるのがいいと思います。
たとえば、学習センスと遊び心のある、学力の高い学生の家庭教師を探す、あるいは個別指導であれば、少なくとも15年以上の指導経験があり、“べき論”を押しつけずにお子さんに寄り添ってくれる人を選ぶとよいと思います。