コンビニアルバイトなどトリプルワークで家族を守った

しかし、収入は会社員時代に比べて少なく、ファミレスや深夜のコンビニで働く「トリプルワーク」をしながら店を続けた。当時の睡眠時間は2時間ほどだったそうだ。夫婦喧嘩も絶えなかったが、「後悔したくないから、いけるところまでいきたい」と、子ども2人を必死に育てながら事業を継続した。

 

副業をしなくても食べていけるようになったのは2015年ごろからだという。

話をする関さん

障がい者の居場所を作りたかった

関さんの元を訪れる人の中には企業で障がい者雇用されたが、周囲から浮いてしまい、居場所を感じられず退職して、引きこもっていた人もいる。

 

「うちに入ればこんなキャリアステップがある、という訳ではないけど、居場所としてここにいたかったら、いつまででもいていいよと伝えている。自分の居場所があると感じられることが大事なのかと思う」

豆を販売する様子

店で働く人の中には、グループホームで暴れて警察沙汰になった子もいた。ただ、店では周囲が、相手の立場や特性を理解したうえで接しているため、ストレスにならず、感情をコントロールできているという。

 

また、関さんから保護者に「本気で向き合っていいか」と聞き、手を出してきたら真剣に注意すると、だんだんわかり合ってくるという。

 

来客が多いと忙しくなるので「疲れた」とは言うものの、みんないい顔をしているそう。そんな顔を見るのが関さんの幸せだという。

 

ルールは「楽しくやる」だけ。今後の目標も「特にない。みんなと楽しく毎日やっていければ」と話す。

さまざまな通所者、迎えに行くことも

知的と精神の障がいがある男性スタッフ(39)が話してくれた。

 

彼はゲーム依存があり、最初は店にも来れず、簡易宿泊所に引きこもってお風呂にも入らずに過ごしていることがあったという。しかし「関さんは何度も迎えにきてくれて。少しでも店に行こうよというので、だんだん来られるようになった」と話す。

 

関さんがグループホームを探してくれたことで、住む場所も見つかったそうだ。

 

「今はお風呂にも入れて、自分の好きなこともできる。信頼できる人もできたからゲーム依存からも抜け出せた」と話す。

焙煎する様子

男性は今ではほかのスタッフの頼りになる存在だ。「今は楽しい。仲間ができたことで人と話せるようになった」と男性は振り返る。

 

「ホームレスになって、落ちているパンを拾って食べたこともあった。ひとりでははい上がれないところまで落ちたけど、関さんの支えのおかげではい上がれた」

袋詰めされたコーヒー豆

関さんは話す。

 

「どこにも居づらい、居場所のない人がここには集まっている。いろんな枠にはまらなかった人が集まって、共存してうまくやっているんです。

 

お金があるほうが幸せかもしれないが、今のほうが楽しい。障がいのある人が生きがいや、やりがいを持てる場を作りたいと思っている。彼らが働くことが楽しくて、生きがいになってくれていたら嬉しい」

取材・文・撮影/天野佳代子