手を取り合って刑務所と社会を変えていく

── この取り組みにどのような可能性を感じていらっしゃいますか。

 

山部さん:
これまで多くの産業が特段期待をしていなかった縫製という刑務作業について、ファッションアパレル業界の専門性の高い指導を受けることで、受刑者が手に職をつけられるような未来性のある内容にしていけるのではないかと考えています。

 

先ほど少し話しましたが、特に女性受刑者は出所後に仕事がないという現実があります。しかし刑務作業として学んだ縫製の技術があれば、社会に出てからも経験値を活かすことができます。

直線縫いできる袋

指導を受けて、デザインや素材を楽しんでもらえるように仕上げた製品が誰かの手に渡り、それに面白みや喜びを感じられたなら、出所後にファッションをあらためて勉強したり、縫製工場に就職したりすることも選択肢の一つに入ると思います。

 

また産業側には、国内の縫製工場が衰退しつつあるなかで、日本の文化産業としての高い縫製技術の伝承と、技術者の高齢化という課題があります。

 

若い受刑者に縫製技術を高めてもらい、出所後には縫製工場への就職にもつながるような環境づくりを法務省と産業とで考え合い、連帯することができれば、可能性は広がるのではないかと思っています。

 

最近では「若い力に期待したい」「応援したい」と手を挙げてくださる企業も出ており、とても嬉しく思っています。

着物地で作った巻きスカート

── 最後に今後の課題を教えてください。

 

山部さん:
やはり、出所後の生活をどうするかがいちばんの課題だと思います。刑務所のなかで生き方を学んでも、生きていける環境が用意されているかというと、そうとは限りません。

 

縫製を含めて手に職をつけ、「私は技術を身につけていて、仕事ができるんだ」「仕事でお金を稼いで生計を建てられるんだ」と、受刑者には希望をもって頑張ってほしいと思うものの、実際に社会がどう受け止めてくれるかどうかは未知数です。
 

このプロジェクトを通じて広く世の中の人たちに知ってもらうことで、過去に犯罪を犯したからといって蔑視されたり差別されたりしない多様性社会を考えるきっかけになればと思っています。

 

まずはこのプロジェクトを通して一石を投じることができたら嬉しいです。

 

 

報道されるニュースに「その後」があることをあらためて実感させられました。どちらの立場でもなく、境界線をにじませる役割を担う「みとびらプロジェクト」に今後も注目し続けたいです。

取材・文/渡部直子 写真提供/一般社団法人みとびら