「刑務所の中にファッションブランドを立ち上げよう」と、産官学が連携した日本初のプロジェクト「みとびらプロジェクト」。「犯罪」がテーマのひとつでもあるプロジェクトを進めるにあたっての葛藤や、それでも前に進む理由、そしてその想いについて一般社団法人みとびらの理事である山部千明(やまべ・ちあき)さんにお話を伺いました。

「社会の問題」として捉え直すために

── プロジェクト立ち上げにあたり、苦労されたことを教えてください。

 

山部さん:
自分がもっている技術や知識、経験やネットワークなどで何かできないかと考え、法務省や関係者の方と内容をすり合わせながら何度も打ち合わせを重ねてきました。

 

それでも「犯罪に関係するもの」と「ファッションアパレル」をつなぎ合わせるのは、真逆のものに重なりを見つけるような大変な作業でした。

 

刑務所って、一般的には「怖い」「行きたくない」「関わりたくない」と思われる場所でしょうし、その施設を支援するということは「加害者の味方をしているの?」とネガティブに見られてしまうこともあります。なので、協力してくれる企業や団体を探すことにも大変苦労しました。

 

幅広い年齢層の受刑者を支援する制度があるに越したことはないですが、そこにわざわざ触れにいかなくても社会は回っています。

 

「回ってしまうからこそ取り残されてしまう」という問題を解消するために、諦めずにトライしつづけていくことが、苦労といえば苦労なのかもしれません。

 

でも、だからこそ、受刑者を支援することの社会的な意義を説明し続けることで、協力してくださる企業や技術を教えてくださる方が出てきたときは心から嬉しかったです。

着物地を使ったみとびらのデザイン

──  なるほど…。プロジェクトで抱える葛藤は多いのではないでしょうか。

 

山部さん:
そうですね。よく「加害者を支援しているの?」と聞かれたりするのですが、私たちは加害者の立場に立っているわけでも、被害者の立場に立っているわけでもないということが伝わりにくいなと感じています。プロジェクトに対して「加害者側」「被害者側」という意識はありません。

 

社会では、事件が起きて犯人が逮捕されると多くの方が「よかった」と思うけれど、刑務所側から見ると、「その後」のことを仕事にしているので、「さて、これからどうしようか…」と思うようです。

 

というのも、若年女子受刑者ほど、いずれ社会に戻るときに住む場所がなく、家族から縁も切られていて、お金もない、技術もない…という状況なのだそうです。刑務所側の方々は、1年近くかけてひとりひとりの帰る場所を調整しています。

 

── 確かに、逮捕された受刑者のその後についてはあまり考えたことがありませんでした。若年女子受刑者は、出所後に「普通に生きる」ということが特に難しいんですね。

 

山部さん:
はい。このデータは女性に限ったことではないのですが、2007年に法務省が実施した調査によると、年間約5000人の方が、住居や社会での居場所がないまま出所しています。さらに、そのうちの4割が出所後1年以内に罪を犯し、再び受刑しているようです。

 

出所後にとりあえず安いネットカフェで寝泊まりをして、日雇いの仕事があればそこで日銭を稼ぐというような苦しい生活をするなかで、仕事がなくなってしまうと刑務所に戻りたいと思ってしまう人がいることも現実です。

 

そういった部分は社会に伝わりにくいので、刑務所側の方々は「私たちが頑張るしかないよね」と、受刑者の出所後の居場所探しのため日々奔走しています。

着物地を使った巻きスカート

「良い」「悪い」ということだけではなく、現実として、このままだと確実に同じことを繰り返してしまう。そうなると、また被害を受ける方が出てしまう。この問題は、「社会の問題」としてみることでしか解決策はないのではないかと思いました。

 

また、このプロジェクトで立ち上げた私たちのファッションブランド名は「NIJIMU(にじむ)」といいます。

 

このプロジェクトに関して「すごくいいね」と言われることもあれば「応援できない」という声もあるなど、両極端の意見をいただきました。しかし、多くの方の感想は「よくわからない…」というものでした。

 

そこで、心から過ちを償い、社会復帰に向けて立ち直りを目指している若年受刑者の存在を知ってもらうことから始めたい、出所後の生活の糧である「仕事」につながる技術やアート感覚をファッションアパレルという分野から支援できないだろうかと考えたんです。

 

さまざまな声があることを知ったうえで、日々葛藤はあるものの、「NIJIMU」という名のように、どちらのスタンスにも立たずじわじわとにじむ、どんな境遇にある人も排除されない世の中を目指して活動したいと考えています。