人として「生ききる」ために
── 現在ブランドを立ち上げ、精力的に活動されていらっしゃいますが、この取り組みに期待することを教えてください。
山部さん:
「NIJIMU」は、「刑務所でつくった、刑務所のブランドです」とあえて公言しています。ファッションブランドNIJIMUを通して、受刑者にはモノづくりの喜びを、購入してくださった方には、世界に2つとない特別な商品を手に取る喜びを届けたいと考えています。
若年受刑者と一緒にものづくりをしようと考えた背景には、若年受刑者、なかでも特に若年女性受刑者ほど、いずれ社会に戻るときに住む場所がなく、家族から縁も切られていて、お金もない、技術もないという状況に陥っているという問題があります。
私たちが実現したい社会は、どんな境遇にある人も排除されない世の中です。作業に関わる受刑者が、やりがいや幸せを感じながら働くということを通じて、社会復帰に必要な技術や経済的な足掛かり・社会とのつながりをつくるきっかけになれればと思います。
また、刑務作業のなかで立ち直る意識を持った若年受刑者が国家検定の資格を取ることができれば、それは専門性のある確固たる技術を持っていることの証明になります。今後の可能性を広げるためにもそのようなことができればと希望を持っています。
── 最後に、今後の課題について教えてください。
山部さん:
先ほどの今後の展望につながってくるのですが、受刑者が抱く出所後の不安は、世間の偏見もありますが、やはり「孤立」だと思います。
その孤立にたった一人で立ち直って乗り越えるほどの力は、今の縫製という刑務作業環境では培われません。
所内で生き直しを学びながらも専門性の高い技術を得た経験は、生きていくための活力になると思うので、私たちの活動が一歩ずつ進んで、周りからも後押しされる社会に少しでも変わってくれたらいいなと思っています。
「人として生ききる」ためにも産業としては仕事や技能を伝え、刑務所では生き方を学び、経験を得てもらいたいですし、東京藝術大学DOORとしては、アートとファッションで一つ一つの社会問題や他人との間にひいてしまう境界線を繋いでいけたらと思っています。
…
「NIJIMU」に込められた思いをうかがい、自分の中の「ファッション」の定義が広がりました。おしゃれさも兼ね備えたNIJIMUの今後の展開に期待せずにはいられないインタビューとなりました。
取材・文/渡部直子 写真提供/一般社団法人みとびら