今や全国に広がっている「田んぼアート」。その発祥の地として知られる、青森県・田舎館村。田んぼアートが話題となり約35万人の人が集まるようになった田舎館村ですが、村の未来には暗雲が立ちこめているとか…!村の現状について田舎館村役場・企画観光課の鈴木文人さんに詳しく伺いました。
田んぼアートで村が豊かになっていない!?
── 「田んぼアート」が始まって約30年になります。いまでは多くの人が田舎館村を訪れています。
鈴木さん:
そうですね。もともと「村おこし」でスタートした田んぼアートですが、「村おこし」という意味では一定の成果を出せたんじゃないかと思っています。
田舎館村は、青森県の津軽平野に位置する村で、人口はわずか8000人です。そんな小さな村に田んぼアートを楽しみに多くの方が足を運んでくださいます。田んぼアートは7月中旬から8月中旬が見頃ですが、冬にも雪で描く「冬の田んぼアート」をやっていて、コロナ禍の時期を除いて、年間を通して約35万人の方が田舎館村に足を運んでくださっています。
── 「田んぼアート」の広がりで、田舎館村の稲作も盛んになったのではないでしょうか?
鈴木さん:
田舎館村は稲作が産業の中心なので、田んぼアートを行うことは、そのPRのひとつでもありました。農家のみなさんのためになれば…と思っていたのですが、それと働き手とはまた別の話のようです。若い人は都会へ働きに出て、農業就業人口は減るばかり。村の主要な産業が徐々に衰退傾向にある、厳しい状況です。
── 「田んぼアート」で作ったお米がたくさん売れて村が豊かになった、ということはないのですか?
鈴木さん:
残念ながら、田んぼアートで作ったお米の販売はしていないんです。
確かに、食べたいと思ってくださる方は多くいらっしゃるようです。その証拠に、田んぼアートの稲作体験は、参加費が無料という点も魅力だと思うのですが、それ以上に「お昼ご飯」に人気の秘密が隠されています!
お昼ご飯には、地元民が手作りした豚汁のほかに、前年の田んぼアートでとれたお米のおにぎりがふるまわれます。その他に田んぼアートでとれたお米が食べられるのは、各イベントなどでの配布のみになるのでとても貴重です。
── 田んぼアートのお米は販売するほどの量はないのでしょうか?
鈴木さん:
というよりも、田んぼアートで使う稲の多くは観賞用の稲であって、食用に適していません。
田んぼアートは、黄、紫などの古代米や、白、赤などの研究所で開発された観賞用のイネ、全7色10品種のイネを植えることでカラフルなアートを表現しています。そのうち、緑の稲は翌年の田んぼアートの稲作体験のお昼ご飯などのために保管しますが、黄色、紫、濃い緑は村で刈り取った後、次の年のたねもみとして再利用しています。
また、白、赤、オレンジは観賞用のお米で、隣にある黒石市にある開発元の「産業技術センター」から毎年たねもみを購入しているのですが、増やしてはいけないという約束があるので、後で廃棄しています。
ただ、田んぼアートの背景などに使用しているお米は、田舎館村で作られているお米の品種「あさゆき」と同じものです。もし田んぼアートのお米が食べたいと思ったら、プロの農家さんが作った「あさゆき」があるのでぜひそちらを楽しんでいただけたらと思います。