自死も考える悩める人々の駆け込み寺として約30年活動を続けてきた千葉県成田市、長寿院の住職・篠原鋭一さん(77)。最近は中高年男性からの悩み相談も増えていると聞き、お話を伺いました。
※本記事は「自殺」などに関する描写が出てきます。ご体調によっては、ご自身の心身に影響を与える可能性がありますので、閲覧する際はご注意ください。
「収入途絶え、ローンが払えず、妻との関係も…」
── 中高年の男性からの悩み相談も多いそうですね。
篠原さん:
はい、この前も50歳ぐらいかな。研究部門にいた男性がスパッとリストラ候補の窓際族にされて、早期退職したんですね。
自分がしていた研究が突然奪われ、給料も入って来なくなった。家のローンもあるし、息子さんの大学進学費用もある。経済的な困窮が襲ってきたわけです。さらに、奥さんとの関係もギクシャクしてしまい、離婚問題になったんです。
でもそれは、彼だけの責任なのでしょうか。思いもよらないことが起き、次々に新しい苦悩を背負わせてくるのは、社会の責任でもありますよね。
彼は生きていても意味はないと私にいうんですね。
家族とも無縁状態になって、孤立して、自死念慮も湧いてきたと電話が来たんです。
私は「ちょっと待って、迎えに行くから」と電話で答えました。
彼は「いえ、最後に話を聞いていただけたらいいんです」と。「でも、まあ待ちなさい」と迎えに行ったら、彼はそこに立っていました。私は彼を寺に連れてきたんです。
ひと晩語りあって「うちの寺にきて草刈りしたらどう?」「近くに農家があるからやってみたら?」というと、「そんなことできるんですか」と顔色を変えるんです。
それが孤立からの解放になって、生存意欲に繋がっていくんです。ああ、そんな働き方、生き方もあるのかと視野が広がるんですね。