カリスマ的な人気を誇ったモデル時代を経て、現在は執筆業やプロデュース業など幅広く活躍している押切もえさん。私生活では、4歳長男、0歳長女の2児の母です。

 

今年3月に、朝日新聞の読書面で書評を執筆する務めを終えた押切さん。2年の書評委員任期中に第二子を出産するなど多忙ななかで、読書・執筆の時間はどう確保したのか、その経験を振り返ってもらいました。

不安だった書評委員会議はオンラインに

もともと本を読むことは大好きなので、お話をいただいたときはすごくうれしかったです。

 

書評委員は、2週間に1回、朝日新聞社さんで書評委員会議をします。「私はこの本について書きたいです」と、各分野で活躍する方たちがそれぞれプレゼンをして本を決めるのですが、普段お会いできないような方々と交流を持てること自体が、とても貴重な機会で楽しみでした。

 

反面、夕方6時半スタートだったので、「お子さんも連れて来ていいですよ」と言っていただいたものの、1時間半、ワンオペ子連れで、「大丈夫なのかな…?」と不安があったのも事実です。

 

ところが、始まってすぐにコロナ禍に。もちろん会合はNGですから、ほとんどオンラインでの開催になりました。最後の会議では、小説家の金原ひとみさんも出席されていて、ちょっとミーハーですが、「同じ画面に金原さんがいらっしゃる!」と思って、ドキドキしました(笑)。

「寝た!」散歩の途中で執筆することも

大変だったのは、やはり育児をしながら読んでまとめることでした。

 

「この日に書こう」と確保していた時間にほかの予定が入って、結局、子どもを寝かしつけた後、夜中までかかって書くことになったり。子どもの世話があるので、夜に仕事を持ち込むことは極力避けているのですが、なかなか計画通りにはいかなかったです。

 

基本は、息子が幼稚園に行っている間や、習い事の待ち時間にカフェで一気に書いていました。

 

下の子が産まれてからは、ママバッグにパソコンを入れて、寝つくまでグルグルとベビーカーで散歩して、「寝た!」と思ったら急いでカフェに入って書いたりも。上の子が赤ちゃんのときからやっていた方法なんですが、そうやって細切れの時間でなんとか乗りきっていました。

産後の忙しさのなかで「東南アジアの風を感じた」

任期中に二人目の赤ちゃんを授かって、産前・産後3か月おやすみをいただいていた間も、本を読んで書き続けました。それが意外にもリフレッシュになりました。

 

産後すぐは目を酷使したくなかったので、時間を短くして休み休みではありましたが、長編小説にもトライしました。書評委員をしていなかったら、産後バタバタしているなかで読もうともしなかったと思います。

『インドラネット』を手にする押切もえさん

桐野夏生さんの『インドラネット』を読んだときは、物語の舞台である東南アジアの風や湿度、匂いや音や舞い上がる砂埃の感じまで想像をかきたてられて、自分の今の生活とはまったく違う、別の世界へ旅しているような気分を味わわせてもらいました。

 

映画監督で小説家の西川美和さんのエッセイ『スクリーンが待っている』の書評を書いたのは、ちょうど産休に入る前でした。テレビ番組で放送されていた西川さんのインタビューがすごく心に残って、そのエッセイをすぐ手に取りました。「西川監督の映画はここまで考えられて作られているんだ」「こんな大変さがあるんだ」と知り、その後すぐにその本で完成までを描いていた映画『素晴らしき世界』を観て何層もの感動を味わいました。

 

書評の文字数は800字です。決して多くはないので、毎回じっくり読み込んで自分の考えと向き合い、関連する資料を調べたり、映画を観たり、いろんな角度からアプローチして余すことなく思いを書くようにしました。

 

ありがたいことに、作家さんからお礼のお言葉をいただくこともありました。先述の西川美和さんからはなんと直筆のお手紙までいただき、思わず涙を流しながら読みました。

 

二人の育児のなかで綱渡りともいえる2年間でしたが、挑戦して良かったと心から思っています。

 

PROFILE 押切もえさん

モデル・文筆家。高校1年のときにスカウトされ、ティーン誌の読者モデルに。女性誌『CanCam』の専属モデルを経て、TV、ラジオなど、幅広く活躍。2013年には小説家デビューし、文筆活動も行う。私生活では2016年に結婚。現在2児の母。

取材・構成/相川由美