やっと見つけた「自分が生きていく道」
—— 診断を受けたときは、どのような気持ちでしたか?
リトさん:
正直、肩の荷が下りたという気持ちでした。それまではまわりと比べてできないことが、「なまけている」「努力がたりないせい」だと思っていたんです。
それが生まれつきの脳機能の発達障害とわかったことで、諦めがつきました。自分の努力がたりないせいじゃなかったと。長い間、精神的に辛い社会人生活を送っていたので、正直、救われた気持ちでした。
—— その後はどうしたのですか?
リトさん:
このまま仕事を続けても同じ問題が続くだけだと考え、ほどなくして辞めました。僕の場合、自己都合ではなく障害を理由にした退職なので、失業保険が300日もらえることに。その期間に、自分が今後生きていく道を探してみようと試行錯誤することにしました。
最初は発達障害についてまだ知らない人たちに知ってほしいと、自分自身の経験や発達障害に関する本を読んで得た知識を投稿して 、Twitter上で発信していきました。フォロワーも1800名まで増え、「発達障害のことを知るきっかけになった」という声ももらいました。
ただ残念ながら仕事にはなりませんでした。
ある日、Twitterの投稿ネタになればと、自治体が運営する就労支援施設の講座に参加してみたんです。ただ、内容が退屈で、ふと、プリントの端っこに落書きした自分の絵を見て、「これをアートにできるのでは」と思いました。
発達障害の特性のなかには、短期的にものすごい集中力を発揮するというものがあります。僕も小さい頃から、好きなことに関してはとてつもない集中力があることを自覚していました。例えば魚の骨を集中して取ったり、延々とジグソーパズルをしたり…。集中して細かい絵を描くことが、障害のことを伝えるツールになるかも、と思ったんです。
—— そこからアートを通して障害について発信するようになったのですね。
リトさん:
そうです。最初はUFOや機械の集合体など細かいイラストをアップしていました。反響はありましたが、それも長くは続きません。紙の切り絵にも挑戦しましたが、紙の切り絵はすでに投稿している人が多くて、どんなに細かい作品を作ってアップしても、SNSでは埋もれてしまいます。そのときに見つけたのが、葉っぱに切り絵をしているスペインのアーティストだったんです。
一瞬でその世界に引きこまれ、とりあえずできることはやってみようと、その日のうちに自分も挑戦してSNSにアップしました。この日が僕の葉っぱ切り絵アーティストとしてのスタートです。
仕事を退職してから約2年の月日が経っていました。その後は、本を上梓したり、全国を回って展示会を開いたり。葉っぱの切り絵が僕の世界を大きく広げてくれました。今となっては、発達障害と診断されたことが人生の大きな転機だったと思います。
PROFILE リト@葉っぱ切り絵
葉っぱ切り絵アーティスト。1986年生まれ。神奈川県出身。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。国内メディアから、米国、英国、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イラン、タイ、インド、台湾など、世界各国のネットメディアでも、驚きをもって取り上げられる。8月に新刊『葉っぱ切り絵絵本 素敵な空が見えるよ、明日もきっと』が発売予定。
取材・文/酒井明子 撮影/キムラミハル