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4月中旬から下旬にかけて慣らし保育が終わり、いよいよ職場復帰するママも多いことと思います。保育園に通い始めたばかりの子どもにとって、切っても切れないのが風邪などの病気。たとえ症状が軽くても、熱のピークを超えても、体温が37.5度以上あると保育園では預かることができません。しかしママもパパもこれ以上仕事を休めず、頼れる祖父母もいない…という時もあります。 そんな時に病気の子どものお世話をしてくれるのが「病児保育」です。 今回は、意外と知らない事実も多い「病児保育」について、いざとなって「え?知らなかった」と困らないよう、ママ・パパが知っておきたいことをまとめました。

 

1.「施設型」と「訪問型」がある


病児保育には、保育園や医療機関の一部など、病気の子ども専用の場所で預かってもらう「施設型」と、自宅に病児保育士と呼ばれるスタッフが来てお世話をしてくれる「訪問型」があります。 それぞれのメリットは次のようなもの。

 

【施設型】

  • 複数のスタッフに見てもらえる
  • 訪問型より費用が抑えられる
  • 医療機関併設の施設なら、急に重症化したときも対応がスムーズ

 

【訪問型】

  • 慣れた自宅で見てもらえる
  • 送り迎えの時間が不要
  • 施設型より見てもらえる病気の範囲が広い
  • 他の子がいないので二次感染の心配がない

 

訪問型の病児保育の様子は、2015年にTBSでドラマ化された『37.5℃の涙』で見たという人もいるかもしれません。 現在、国内の保育施設のうち、病児保育に対応しているのは5~6%とのこと。国の目標と比べて「施設型」はまだ大きく不足しており、都市部を中心に「訪問型」がカバーしている状況です。

 

2.どんな症状でも預かってもらえるわけではない


「病気の子どもを預かる」とはいえ、感染症の発症直後や、38.5以上の高熱が続いているような場合は病児保育の対象外となり、親が仕事を休んだり祖父母などが付き添ったりする必要があります。 また、麻疹(はしか)などの重篤な感染症もほとんどの場合が病児保育の対象外です。

 

実際に子育てをしてみると分かりますが、子どもは風邪で37~38度の熱があっても、意外と元気なことも多いもの。 しかし、保育園でいつも通りの生活をするのは、疲れから症状が悪化したり熱がぶり返したりする可能性が高いですし、他の子に病気をうつしてしまうおそれもあります。 そんな時こそ、静かな環境でケアしてもらえる病児保育が最も適しているといえるでしょう。

 

3.見てくれるのは、看護や保育の有資格者とは限らない


実際に病児保育を行うスタッフを「病児保育士」と呼びますが、これは「看護師」や「保育士」のような国家資格ではなく、病児保育に当たる人の総称です。 もちろんその中には保育士や幼稚園教諭、看護師、ベビーシッター等の資格を持つ人もいますし、資格はなくとも育児のベテランママもいます。 訪問型病児保育の大手サービスでは、「保育の実務経験1年以上、または子育て経験7年以上の経験者」などをスタッフの条件としています。

 

病気の子どもの保育にかかわる国家資格としては、「医療保育士」やより高度な医療知識を持つ「医療保育専門士」などもありますが、保育園または病棟で働く人が多く持つ資格であり、通常の病児保育を担当することはあまりありません。 民間では「病児保育スペシャリスト」という資格もあります。一定期間の講習を受けてテストに合格した人に与えられ、病気・保育の知識や対応能力の証明になります。

 

ただし上記の資格がないスタッフでも必ず所定の研修は受けていますし、各施設やサービスにより多少異なりますが、体温変化・排泄回数・食事の量などの記録はもちろん、5分おきの赤ちゃんの呼吸確認など、きめ細かいケアを行ってくれることがほとんどです。

 

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4.定員オーバーで預けられないこともある


施設型の病児保育では、いざ病児保育をお願いしようと思っても、定員は3~5名ということが多く、定員オーバーで受け入れてもらえないこともあります。 利用できなかったときのため、次の選択肢として、祖父母にお願いする・両親のどちらかが休むなどの段取りは考えておく必要があります。

 

「朝8時までに連絡をいただければ、100%シッターさんを派遣します」とうたっている訪問型病児保育サービスもありますが、利用するには毎月の会費が必要。 過去には、申し込みが殺到したため新規会員登録をストップした訪問型サービスもあり、いざとなってからでは利用先が見つからない可能性もありますので、できるだけ早い時期に情報収集しておきましょう。

 

施設型の場合も、その場で会員登録できることもありますが時間はかかります。前もって登録しておけばシステムや必要な持ち物も分かりやすいですし、当日も手続きがスムーズですね。

 

5.インフルエンザや水ぼうそうの時は


37.5以上の発熱のほか、インフルエンザや水ぼうそうなどに感染すると、法律で決められた日数は登園禁止となりますが、この場合の病児保育はどうなるのでしょうか? 実は、施設型と訪問型では基準が異なりますが、所定の条件を満たせば感染症でも預かってもらえます。

 

【病児保育可能な病名と条件の例】

  • 施設型:インフルエンザは解熱後2日以降、その他感染症は38.5度以下なら可能
  • 派遣型:インフルエンザ・水ぼうそう・手足口病・溶連菌・ロタ・ノロウイルスなども発症当日から可能

 

ただし麻疹(はしか)は重篤化するおそれがあるため預かってもらえないことがほとんどです。 いずれの場合も医療機関の診断書が必要ですので必ず最初に受診して下さい。

 

もし「病気の子を預けるなんてかわいそう」と言われたら


「病児保育」のイメージは、利用したことのない人や詳しく知らない人からみると「かわいそう」と感じられることも少なくありません。 祖父母世代から「病気の子どもを預けるなんて…」「そこまでして働きたいの?」等と言われて涙したり、夫から「病気の時くらい仕事を休むべき」と言われてケンカになったというママの声も後を絶ちません。 ママ自身にもできることなら親がみてあげたいという気持ちがありますし、「かわいそう」というのも意地悪からではなく子どもを心配しての発言だけに辛いものです。

 

しかしママにも、外せない会議や商談があったり、職場で「休んだ人のフォローばかりで迷惑。これで給料が同じなんて納得できない」等の心ない声が上がっていたりすると、これ以上休むわけにいかないという思いがあります。 パパの事情としても、多くの職場ではまだまだ男性の育児参加への理解が進んでおらず、ひんぱんに子どもの病気で休めば評価を下げられると懸念して休めない人がほとんど。 子どもが病気の時くらい、男女ともに堂々と仕事を休むことができて、周囲も温かく見守り、しわ寄せが特定の人にいかないような職場体制が整っている…そんな社会を早く実現しなければ、今後も日本の少子化は食い止められないと筆者は個人的にいつも思っています。

 

しかし、現実はまだそこまで進んでいません。誰かに「かわいそう」と言われることはこれからもあるかと思います。

 

ただ、そもそも病児保育の定義は「軽微ではあるが保育園に預かってもらえない病気の子供を預かること」となっていて、どんなに子どもの病気が重くても預け、親が仕事をすることを目指すものではありません。 また、国では、病児保育の利用人数を平成27年度の61万人(のべ)から、平成32年度には150万人に増やすことを数値目標としており、今後は病児保育に対する環境が少しずつ充実していくことが期待されています。

 

現状では、周囲の人が「病気の子どもがママと離れて慣れない人に預けられてかわいそう」と思うのは自然な感情です。 反面、もしママが「病気の子には必ず親がついていなければ」という観念に縛られた結果、職を失うことになれば生涯年収には大きな差が生じます。 経済的理由で子どもが十分な教育を受けられない事態になったとき、今度はそのことを「かわいそうだ」という人が現れるかもしれません。

 

誰からどう見てもマイナス面のない選択というのは非常に難しいこと。 熱が高くてつらそうなときは夫婦で協力して休みを取って看病したり、微熱は残るものの食欲もあって元気なら病児保育を利用するなど、子どもの状態に寄り添いつつ、合理的な判断をしていくほかないのではと思います。

 

まとめ


小さい子を持つ親にとって、保育園に預けられない体温「37.5度」は本当に重大な数字。日々、綱渡りのような思いで過ごしているママも多いことと思います。 病児保育には、ママやパパ自身にも「かわいそうでは…?」という不安があり、候補として考えていない人もいるかと思いますが、「けっこう元気なのに預けられない」という時は利用するのも一つの方法。 今回の記事を参考に、いちど地域の病児保育の情報を集めてみることもおすすめします。

 

文/高谷みえこ

参考:内閣府「教育・保育に関する報告・データベース」 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/data/index.html

(財)日本病児保育協会「認定病児保育スペシャリストとは」 https://sickchild-care.jp/specialist/#sec00

一般社団法人 全国病児保育協議会「病児保育の概念」 http://www.byoujihoiku.net/about/index.html