「最近の子どもには夢がない」といった発言をときどき見かけることはありませんか? たしかに、今の子どもたちを取り巻く社会は、大きな夢や目標を叶えることよりも身近な仲間とつながって日々を楽しく過ごせればOKという空気で、がむしゃらに夢を追って大成功する人生なんて少年漫画の中だけにしかないような気がしますよね。 でも、本当に今の子どもたちには将来の夢がないのでしょうか? ないとしたら、その理由は何でしょうか? そして「将来の夢」は必ず答えられないといけないのか…? そんな疑問について考えてみたいと思います。

今の子どもたちのなりたい職業は?


まずは、2017年に行われたアンケート調査から、子どもたちの「将来なりたい職業」を見てみたいと思います。

 

【小学生男子のなりたい職業】

1位 サッカー選手・監督など 2位 野球選手・監督など 3位 医師 4位 ゲーム制作関連 5位 建築士 6位 ユーチューバー 7位 バスケットボール選手・コーチ 8位 大工/警察官 10位 科学者・研究者

 

【小学生女子のなりたい職業】

1位 看護師 2位 パティシエール 3位 医師/保育士 5位 ファッション関連(デザイナー等) 6位 獣医 7位 薬剤師 8位 美容師 9位 教師 10位 漫画家

 

(第11回「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」応募作品より集計)

 

ここ数年の特徴としては「ユーチューバー」が新しく登場して話題になりましたが、なりたい職業そのものはスポーツ選手や興味のある分野・人の役に立つ職業など、従来から大きく変わっていない印象です。

 

しかし、将来の夢というと私たちはイコール「職業」ととらえてしまいがちですが、小学生はもちろんのこと中学生や高校生の時点で特定の職業を目指していることは、はたして必要なのでしょうか?

子どもは大人を映す鏡


2017年、ソニー生命保険株式会社が1,000人の中高生に対して実施した調査では、大人に対するイメージについて、次のような結果が。

 

「疲れている」→中学生の88.5%、高校生の93.2%が“YES” 「大変そう」→中学生の87.5%、高校生の92.5%が“YES”

 

子どもが「将来自分がどんな職業に就きたいか」を考える時、やはり身近な大人、つまり両親はもっとも参考になる存在ですよね。

 

しかし調査結果を見ると、ほとんどの子どもにとって、親の家での姿は「仕事が楽しい」「充実して働いている」とは映っていないことが分かります。 子ども自身が将来いきいきと働く自分をイメージしにくい状態で「夢を持ちなさい」と大人がいくら声をかけても、なかなか難しいのではないでしょうか。

日本の子どもが見ているのは「夢」ではなく「現実」


また、これは、図書のボランティア活動でたくさんの子どもたちと話してきた筆者の個人的体験になりますが、いまの中学生や高校生の会話を聞いていると、想像以上に家の経済事情や親の反応などを見て「空気を読んで」いる子が多いと感じます。

 

例えば、フィギュアスケートなどのスポーツ選手やプロの音楽家になるには、熱意や才能だけでなく多額の費用がかかります。 特待生になるほどのとびぬけた才能があるならともかく、「やってみたい!」という気持ちだけで多額のお金をかけてもらうわけにいかないと、小学生や中学生でもすでに感じている子はたくさんいます。

 

また、「会社を作ってみたい」「プロのゲーマーになりたい」「アイドル・芸能人になりたい」などの夢を口に出しても、「けっきょく会社員や公務員が安心」「成功する人は一握りだよ?」などの親の反応を見てひっこめてしまったり、失敗したら許してもらえないのではと感じてあきらめてしまったりする子も非常に多いと感じます。

 

そして、「スポーツ(や音楽など)は趣味でいい」「趣味が楽しめる程度に、ブラック企業でない会社に入る」「そのために自分の能力で入れる大学に行く」という流れで進路を決めている子は少なくありません。

 

つまり子どもたちは、「夢」ではなく、「現実」を見ているということ。

 

試しに「じゃあお金はいくらでも使っていいって言われたら、何になりたい?」と聞いてみると、答えが変わってくることもあるので、それが分かります。 戦後の右肩上がりの成長期ではなくなったいま、子どもたちが「現実」を見るようになったのはある意味当然のことなのかもしれません。

将来の夢は、大人が聞いて安心したいだけ?


保育園・幼稚園や、小学校低学年くらいまでの子に、「大人になったら何になりたい?」と聞くと、元気に答えてくれる子も多いですよね。

 

あるママは、お子さんが「バレリーナ!」と即答し、家で毎日毎日踊っているので習いに行くことにしたのに、いざ始めて見ると上達どころか毎回レッスンを嫌がり、けっきょく辞めてしまったそう。

 

「実はチュチュを着て自分の好きな時に好きなように踊りたかっただけで、地味な柔軟体操などをするほどバレエに興味があったわけではなかったんです」

 

いま、小学校4年生で「二分の一成人式」という行事がある学校も増えていますが、この時に「将来の夢」を発表することも多く、ここで困ってしまう子も。

 

下書きに、「ちゃんとお金をかせいで安心して暮らしたい」と書いたら、担任から「そういうのは夢じゃない」と書き直すように言われた子もいるとか。 しかし、それも見方によっては立派な将来の夢ではないでしょうか?

 

「パイロットです」「お花屋さんです」などの分かりやすい職業名を言わせようとするのは、「安心したい」という大人の都合なのかもしれません。

「選択肢が少ない」だけという場合もある


しかし、「将来の夢は?」と聞かれて、「別に…」と首をかしげてしまうのは、単に世の中にはどんな仕事があるのか選択肢を知らないから、という可能性もあります。

 

もちろん、世の中の職業については学校の社会の授業でも習いますが、実際にその仕事をしている人と話したり、体験してみたり、具体的な仕事内容などを知ったりするには授業では限界があります。

 

その状態で「何になりたい?」と聞いても、子どもからすると、わずかな選択肢からなんとなくイメージで選ぶしかないという場合も。

 

親自身も含め色々なキャリアで活躍している大人と話す機会を作ったり、職業体験型のテーマパークや企業の体験イベントに参加したり、わかりやすく仕事内容を解説している漫画や本を手に取りやすい場所に置いておくなど、「何になりたい?」と聞く前に、「こんな仕事もあるよ」という選択肢を増やしてあげたいですね。

まとめ


日本では長らく大企業に入れば安心という時代が続いてきましたし、今でも非正規雇用で働くのは正社員と比べると経済的に不利なことが多いのは変わりません。

 

しかし、今後は労働環境のグローバル化やAI(人工知能)の発達で、大企業の正社員でも一生安心とは言えない時代です。

 

「早く将来の職業を決めてしまう」ことよりも、「やりたいこと」をいくつも持って、自分の意志で選んでいけることが「夢」のある人生といえるのかもしれません。

 

文/高谷みえこ

参考/日本FP(ファイナンシャル・プランナー)協会 2017年度 小学生の「将来なりたい職業」ランキング集計結果http://www.jafp.or.jp/personal_finance/yume/syokugyo/

ソニー生命保険株式会社「中高生が思い描く将来についての意識調査2017」https://www.sonylife.co.jp/company/news/29/nr_170425.html