「10歳の壁」という言葉を聞いたことがありますか? 2009年にNHKの番組『クローズアップ現代』では、ゆとり教育で内容は易しくなっているのに算数などの授業についていけない子が増えているという学力低下の問題を「小4の壁」として取り上げました。

 

その後も「10歳の壁」について発達段階と関連づけていろいろなことが分かってきています。

 

今回は、

  • そもそも、乗り越えるべき「壁」の正体は?
  • 具体的に何か困ったことが起こるのか?
  • どんな子にも起こるのか?
  • ママにできることは何?

 

といった疑問に答えていきたいと思います。

目次

そもそも「10歳の壁」とは?反抗期とどう違うの?

子どもの発達段階のうち、10歳前後に特有の理由から起こる問題や困った状態のことをまとめて現在では「10歳の壁」と呼ばれています。  「10歳の壁」とよく似たコトバに、HNK番組でも出てきた「小4の壁」や「9歳の壁」、「小4ビハインド」などがありますが、「小4の壁」「9歳の壁」の方は(厳密には多少異なりますが)基本的には「10歳の壁」と同じものと思ってもらって構いません。

 

「小4ビハインド」は、「10歳の壁」として起こりうることのうち、特に「算数」の学習分野に限定した現象のこと(これについては記事の後半で分かりやすく解説します)。 これに対して「反抗期」は、発達心理学的には2~4歳頃の「第一反抗期」と12~14歳頃の「第二反抗期」に分かれ、「10歳の壁」とは時期が少し異なっています。

 

第一反抗期(幼児期)では、だんだんと自分でできることが増えてくるため、自立への第一歩としてママからの「○○しようね」という声がけに「イヤ!」と言うのが代表的なやりとりですね。  思春期を迎える第二反抗期では、ホルモンバランスや心身の急激な成長・変化に加え、自己を確立する時期でもあるために、何か指示された時に素直に従わなくなったり、自分のことを話さなくなったり、親の価値観を否定する言動をしたりするようになります。

 

10歳前後の子も何かと口答えしたり「だって」「でも」と反発することがありますが、反抗期とは少し異なり、だんだんと「自分で考えたことを口に出し、主張や交渉できる能力が身に付きつつある」という発達段階にあるのだそう。 それと同時に、低学年頃までの子に特有の「万能感(自分はなんでもできる、自分が世界の中心という見方)」が消え、友だちと自分を比較して、自分にはこれができない…という劣等感を持つようになる時期でもあります。

 

周囲と自分を相対的に見られるようになったという成長の証でもあるのですが、子どもがこの劣等感を受け入れられないでいると、一時的にでも強くなったような気分を味わいたいがために、他の子に意地悪をする・暴力をふるう・急に言葉遣いが悪くなる・集団でイタズラをする…といった、ママからは理解不能な行動に出ることがあります。  しかも、この年頃の子は「ギャングエイジ」とも呼ばれるように、親よりも、友だちと一緒に遊んだり行動したがるようになります。

 

特に男の子に多いと思いますが、秘密基地を作ってお菓子や漫画・ゲームを持ち込み、BB弾で撃ち合う「戦いごっこ」をしたりするのは10歳頃から始まることがとても多いです。 時には個人の敷地に入り込んだり、ケンカになってケガをしたりで、親に連絡が入ってびっくり…といった事態に発展することも。

「10歳の壁」は算数・英語の勉強にも立ちはだかる?!

「10歳の壁」の影響は、大きく分けて、上記のような「対人関係面」と、ここで解説する「学習面」の2つで表れてきます。

 

このうち、 特に「算数」で苦しむ子が続出する現象を「小4ビハインド」とも呼ぶそう。 世間一般では、算数の学習内容は「割合」や「分数」が登場する5~6年生で一気に難しくなると言われていて、実際その通りではあるのですが、実はその手前(=ビハインド)に当たる4年生の時点が、5年生以降の算数ができる・できないの分かれ道だとも言われています。

 

例えば、4年生では「四則計算」と呼ばれる、足し算や引き算、掛け算割り算がすべてミックスされた計算が登場します。 ここが分かっていないと、その先に習う5~6年の内容はもちろん、中学校での「方程式」等の問題を正しく解くことができません。

 

また、それまでの「りんごを10個とバナナを5本買いました」といった目で見える計算の範囲を超えて、億・兆など1万以上の数や文章問題が登場し、抽象的思考力が求められるのも4年生で学ぶ算数の内容の特徴ですが、こういった抽象的な内容についていけない子が出てくるのが4年生頃からだと言われています。 さらに、「英語にも10歳の壁がある」…?などと聞くと、「もうイヤ!」と言いたくなってきますね。

 

英語に関しては、英語特有の子音である「LとR」や「BとV」の発音の違いを聞き取る力が、一般的には9歳頃からだんだんと低下してくるために、「9歳の壁」と呼ばれることの方が多いようです。 一部の英会話教室やマスコミ報道で、「9歳の“英語耳の臨界期”を超えると英語が聞き取れなくなる!」と保護者の不安をあおり、早期教育に走らせる原因として問題になったこともあります。

 

しかし、小さい子はたしかに聞き取りの力は柔軟ですが、10歳以降では反対に、「こう舌を動かせばこんな音が出せるんだよ」など、説明を聞いて理解する力がついてくるため、一概に9歳までに英会話を習わせないと英語が聞けない・話せないというわけではありません。

 

また、ヒアリングの能力とは別に、思春期が近づくと、人前で英語を話すことに対して恥ずかしさを感じてしまうようになりがち。特に、精神面で発達の早い女の子では4年生頃からこの傾向が出てくるため、こちらも英語学習の「9歳の壁」のひとつだと言われています。

「10歳の壁」ってどの子にもあるの?超えるのには何が必要?

まだ小さいお子さんを持つママは、ここまで読んでみて、 「えっ、じゃあこの子も10歳になったら必ずそうなるの?」 「そう言われても、何をしたらいいか分からない」 と思われたかもしれません。

 

そこで、現在10歳以上のお子さんを持つママたちにたずねてみたところ、そもそも「10歳の壁」という言葉を知らなかったというママが半数以上でした。

 

しかし、 「4年生くらいで、小さい頃とずいぶん変わってきたなぁと感じることが増えた」 「宿題をなかなかやらなくなったので、よく聞いてみると算数や理科の授業内容についていけなくなっていた」 という声は次々に上がり、個人差はあるものの、ほとんどのお子さんに「10歳の壁」は存在したようです。

 

前半でも紹介したように、この年頃の子に起こる変化は、発達の段階で必要なものでもあります。

 

しかし、ギリギリ親が押さえつけて言うことを聞かせられる年齢でもあるため、口答えしたら叱る・常に「~しなさい」と命令形で物事を進める…という接し方を継続していると、将来、物事を自分で判断できない「指示待ち人間」になってしまうという指摘もあります。

 

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『クローズアップ現代』の番組内で、コメンテーターの佐藤学氏(東大教授)は、壁を超えるために必要なのは、対人面・学習面に共通して「考える力」であると述べています。  「考える力」なんて、どうやって身に付けさせればいいの?と悩んでしまいそうですが、実は考える力を育てるのには難しいテクニックや特別な方法などは不要です。

 

例えば、子どもが話しかけてきた時に、ママにとっては簡単な内容でも、「ああ、○○ってことね」等と先に結論を言って終わらせようとせず、じっくり聞くだけでもOK。 また、子どもが疑問を持った時は、簡単に答えを投げる(時には仕方ないですが)だけではなく、小出しにヒントを出したり、親もまず「○○だからかな?」と仮説を立ててから実際に調べたりなど、「考える過程」を作ってあげることも有効です。 「えーとね、うーんと」と言うのを待つ間、ママはちょっともどかしいですが、このとき子どもの考える力はぐんぐん伸びているそうですよ。

 

また「考える」時に欠かせないのが「ことば」。絵本や児童文学などはことばの宝庫です。 小さい時から本を読む楽しさを知っている子は、4年生以降で出会う抽象的な数の概念や文章題などにも強いと言えるでしょう。 考える力をつけようとして絵本を与えるのではなく、親子で一緒に絵本を見ながら「楽しい」と思える時間を過ごすのが良いですね。

10歳の壁 まとめ

「10歳の壁」と聞くと、すごく怖いもののようにとらえてしまいがちですが、実は発達の大切なひとつの段階という面も併せ持つことが分かりました。  子どもの成長に変化はつきもの。ママもうまくその変化に対応しながら、成長の節目を見守っていきたいですね。

 

文/高谷みえこ

参考:文部科学省「子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題」 
NKH『クローズアップ現代』 “10歳の壁”を乗り越えろ ~考える力をどう育てるか~ 
書籍『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学 』 渡辺弥生 著 光文社