気温の上がり始める6月頃から夏にかけて、感染する子が急増する「とびひ(伝染性膿痂疹)」。 秋になってホッと安心…と言いたいところですが、実は、「とびひ」の通院者数は6月より9月の方が多いという報告もあり、10月頃まではまだまだ安心できません。 小学校に入学する7歳あたりからは感染者数もグッと減りますが、幼稚園や保育園の年代の子は抵抗力も弱く、子ども同士で過ごす時間も長いため、一度「とびひ」にかかってしまうと通園をどうするか迷いますね。 今回は、「とびひ」の基礎知識と通園の可否などを、ママたちの体験談もまじえてお届けします。
「とびひ」ってどんな病気?
とびひの正式な病名は、「伝染性膿痂疹(のうかしん)」といいます。
皮膚の小さな傷口についた菌が急激に繁殖することで、赤くただれたり、水疱(水ぶくれ)ができたり、びらん(グジュグジュの状態)、厚い痂皮(かさぶた)ができたりします。 菌が患部以外に付着すると、目に見えない細かい傷や肌荒れの部分で繁殖して次々に症状が広がるようすから、火事での「飛び火」に例えて、昔から「とびひ」と呼ばれています。
夏場は気温が高く菌の活動が活発になるほか、虫刺され、あせもなどで肌表面に傷ができやすく、薄着で肌を露出するため特に全身に広がりやすいとされています。
原因菌は2種類ある!
とびひの原因となる菌は、「黄色ブドウ球菌」が9割以上。特に、子どものとびひはほとんどがこの「黄色ブドウ球菌」が原因のようです。どこにでもいる菌ですが、特にヒトの傷口や鼻の穴などを好み、幹部には水疱ができやすいのが特徴です。
また、割合は少ないですが、発熱などでも知られる「溶連菌(連鎖球菌)」によるとびひもあります。こちらは痂皮(かさぶた)が目立つのが特徴で、大人のとびひはこちらが原因になることが多いようです。
とびひの治療は?
治療は、菌の繁殖を抑えるための抗生物質の塗り薬と、範囲が広い場合は飲み薬も処方されます。かゆみが強いため、かゆみ止めの抗ヒスタミン剤があわせて処方されることもあります。
最近では、3割が「耐性菌=一般的によく使われる抗生物質が効かない菌」になっているといわれますが、その場合は別の抗生物質に切り替えてもらえます。
発症してしまったら、とにかく菌を増やさず、皮膚を清潔にすることと、掻いて傷を作らないことが大切。毎日シャワーなどでしっかり体を洗い流し、患部はガーゼで覆うよう指導されます。
とびひは予防できるの?
とびひの潜伏期間は通常2~10日ですが、それより長い場合もあり、家庭内や園で流行っていなくても突然発症することもあります。 予防はかなり難しいのが現状となっていますが、次のようなことには気をつけておきましょう。
- 毎日お風呂に入り、石鹸で身体を洗って清潔にする
- 湿疹・アトピー性皮膚炎のケア・治療を欠かさない
- 虫刺されやすり傷を掻き壊さないよう注意する
- 爪は切っておく
- 外出後・遊んだ後には手を洗う
- 鼻に指を入れない(鼻の入り口に黄色ブドウ球菌が多いため)
とびひになったら、保育園に行けないの?
とびひで皮膚科を受診した場合、お医者さんから、登園・登校について説明があると思います。もし説明がなくても、おそらく「保育園には行っていいですか?」と、ママやパパはたずねるでしょう。
とびひ(伝染性膿痂疹)は、学校保健安全法で「学校感染症、第三種(その他の感染症)」と定められています。 皮膚科医は「日本皮膚科学会」に所属していることがほとんどですので、日本皮膚科学会の統一見解に基づいて、次のように言われることと思います。
- ほかの園児にうつす可能性があるため、基本的には、診察・治療後、病変部をガーゼや包帯できちんと覆って露出させないことが必要
- 上記を守っていれば、登校・登園は可能
- ただし、患部が全身に広がっている場合は休ませるほうがよい
特に、赤ちゃんや年齢が低い子では、包帯やガーゼが外れても自分で元に戻したり先生に言ったりできないため、患部が他の子に接触してしまう可能性がかなり高いといえます。 ちなみに、米国小児科学会では、治療開始後 24 時間までは他の子との隔離を推奨しています。可能であれば、一日目はお休みして、ガーゼや包帯をしたままでいつもの園生活が可能そうかどうか、様子を見るのも良いかもしれません。
なお、登園できる場合でも、夏場のプール・水遊びはできない園がほとんど。 とびひは接触感染なので、プールの水では他の子にはうつりませんが、水遊び中に直接体が触れ合うと感染の可能性がありますし、患部を覆うガーゼが濡れると菌が繁殖しやすく、本人の症状が悪化することがプール禁止の理由です。
わが子が「とびひ」にかかってしまったママの体験談
お子さんの「とびひ」を経験したママはとても多いと思いますが、どのように対処していたか、体験談を聞いてみました。
Mさん(35歳・7歳と4歳のママ)は、下のお子さんだけがとびひになった経験があるそう。 「上の子の学童保育で、とびひになったお子さんが2~3人いたのですが、うちの子は大丈夫だったので油断していたんです。ところが、しばらくして下の子がとびひに。小学生くらいになると抵抗力が強くなってくるため、本人は発症していなくても鼻などで黄色ブドウ球菌が増えて、幼いきょうだいだけが発症する…というケースもあるようです。発症後は、念のため、遊ぶときは直接肌が触れないようにし、お風呂は下の子を最後に入らせていました」
Yさん(29歳・2歳のママ)は、お風呂・シャワーに工夫していたと言います。 「とびひになっちゃった!とベテランのママ友に話したら、“とにかく、怖がらずに石けんでしっかり洗うのがコツよ!”と言われ、よく泡立てた石けんで、朝と夜に患部を洗っていました。そしたら、薬のおかげもあると思いますが、予想よりかなり早く完治しました!このアドバイスを聞いていなかったら、おそるおそる洗って、患部に菌を残してしまっていたかもしれません。ママ友に感謝してます」
Yさん(27歳)のお子さん(5歳)は、2カ月おきにとびひを繰り返していたのですが、引っ越し先の皮膚科でこんなことをたずねられたそうです。 「“お母さん、最近、他の病気で抗生物質を飲ませましたか?”と。たしかにその時、中耳炎で耳鼻科から抗生物質をもらって飲ませていました。実は、前回のとびひの時、耐性菌が皮膚に残っていたようなんです。耐性菌が完全に身体から消える前に抗生物質を飲んだことで、他の菌が減り耐性菌が勢いを増してしまった結果だとか。耳鼻科の方の飲み薬を変えてもらったところ、とびひも間もなく治りました」
Oさん(32歳・4歳のママ)は、お子さんが幼稚園に通っています。 「虫刺されからとびひになってしまったのが9月でした。運動会の練習が佳境だったので、できるだけ園は休ませたくなかったんです。皮膚科では、範囲が狭いのでガーゼで覆って登園してもよいと言われたため、患部を触らないように言い聞かせて通園しました。息子も運動会を楽しみにしていいたため、かゆくても触らずがんばり、なんとか治ってホッとしましたが、もう1歳小さい時だったら無理だったかも…」
なお、上記の体験談は、個人的にインタビューしたものであり、医療機関の診断の代わりとなるものではありません。もしお子さんが実際にとびひにかかった場合は、必ず医師の診察を受け、指示に従って下さいね。
まとめ
筆者の場合、一般的に「とびひになりやすい、重症化しやすい」と言われるアトピー性皮膚炎の長女は一度もとびひにかかったことはなく、乳児湿疹以外に肌トラブルのなかった次女は5歳の時にとびひに感染しました。
どんな子でもかかってしまう可能性のある「とびひ」、早目の治療で悪化させないことを目指したいですね。
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参考:厚生労働省「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002q4hg-att/2r9852000002q4lb.pdf
東京都福祉保健局 健康安全研究センター「黄色ブドウ球菌」 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/micro/oushoku.html