がむしゃらに働いた料理人時代。目標が見えなくなったことでレストランを辞め、転身した“家政婦”という仕事について「志麻さんが料理人から家政婦に転身したワケ」でお話をうかがいました。

 

天職と思える職業に出会うと同時にフランス人の夫と結婚、第一子の出産…と家庭も持つように。今回はここ数年で料理人時代とはがらりと変わった、志麻さんの現在の暮らしについても伺いました。

家では私もひとりの働くママ
夫の協力なしに、暮らしは成り立ちません

── 志麻さんもママになり、仕事に家事、育児と大変ですよね。両立する秘訣ってなんですか?

 

志麻さん:夫婦で家事の分担を決めないこと。決めた途端に…「なんでやってくれないの!」なんて言ってしまうこと、ありませんか。わが家では、手が空いたほうが何でもやる。やって欲しいことは「これ、お願いね」と伝えることを約束しています。

 

もちろん、うまくいかなくてけんかになることもありますけどね。夫の協力なしには、家政婦に子育て、テレビ出演にとこなせないと思います。

 

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▲「ソファーで3人で過ごす朝のひと時が、ホッとできる時間です」

 

── 夫婦げんか、どうやって乗り越えていますか?

 

志麻さん:夫はフランス人。察するより、何でも言いあう文化です。

 

何となく不機嫌な態度だと「言葉にしなきゃわからないよ」と、話をするきっかけをくれます。そして、フランスならではのBise(ビズ:Kissの意味)に助けられています。フランスの挨拶「Bise」は、口先でチュッと音を鳴らしながら頬と頬を合わせる挨拶。朝起きた時や眠る前、出かける時には必ずします。すると…けんかして、怒っていた気持ちが、スーッと軽くなり、気づけば仲直り。日本人同士でも、このフランス文化を取り入れてみるのもオススメです。

 

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▲撮影中、ハイハイでキッチンまで遊びに来てくれた真之介くん。

いかに食べやすく作ってあげるか、よりも、
赤ちゃんと一緒に家族で食卓を囲みたい

── お子さんの離乳食にこだわりはありますか?

 

志麻さん:たとえばポトフの味をしっかりと決めてしまう前に野菜をとりだしてつぶすとか、私たち夫婦と同じものを食べています。それに食べることを好きになって欲しいから、少しは塩をふって、大人が食べても“薄味だけどおいしい”と思う味つけに。そうすれば、私も素直に「このお野菜、おいしいね」って言えますから。

 

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日本の離乳食は味つけをしていなかったり、市販のものも食べやすいようにとろみがついていたり。“赤ちゃんの食事”として、大人のご飯とは別々に作られている印象です。作るのが別々だと、食べるときも別々になりがち。まだ栄養はミルクで補っている時期ですし、何を食べるかよりも、家族一緒に食べられる時間を大切にしています。

 

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▲「家族みんなで食べたら、おいしさも変わるよね」と夫・ロマンさん

特別なメソッドや、高価な教材はいらない
フランスのシンプルな子育て術が好きです

── 食育以外で、子育ての方針などは考えられていますか?

 

志麻さん:私は自分の気持ちと正直に向き合い、想いを持ち続けることで、家政婦という生きがいに出会えました。息子にも好きなモノ・コト、好きな人にまっすぐ向き合って欲しい。そんな想いを込めて「真」という文字を入れ、「真之介」と名付けました。

 

真之介に接するときは、私もまっすぐでありたい。だから、“子育て”よりも、“人育て”と思って接しています。たくさん話しかけ、答えてくれなくても気持ちを聞いてみる。幼い頃から、人としての会話をしていきたいんです。

 

これは1つの例ですが、真之介が生まれたとき、夫の家族からの贈り物はセパレートタイプの洋服でした。日本では産着や肌着で “赤ちゃん扱い”をしますが、フランスでは生まれて間もなく大人と同じような洋服を着るように。一言で言うとフランスの子育ては厳しいと感じます。そのかわり、愛情表現も大きい。「Je t'aime(愛しているよ)」や「Ma chérie(私のいとしい人)」と常に語りかけている夫を見ていると、こちらまで幸せな気持ちに。特別なメソッドや教材はいらないと思っています。シンプルに、人として接していくことで自立した大人に育って欲しいと願っています。

 

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▲Je t'aime Shinnosuke!

 

志麻さん:真之介はこの春から保育園に入園し、毎日元気に通っています。もっと、泣いたりするかと思っていたんですが(笑) おかげで私も気持ちよく仕事に出かけられます。家事に育児にと協働する夫、笑顔で保育園に行ってくれる息子に支えられて、仕事に集中させてもらえるんですね。子育てをしながら、自分自身も働くママとしてまだまだ育っていきたいと思います。

 

肩の力を抜いた、志麻さんの子育て。撮影中も仲良く過ごす3人の姿が、楽しい毎日を物語っていました。次回は、志麻さんのキッチンについてお話を伺います。

伝説の家政婦・志麻さんの自宅を訪ねて

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Profile 志麻さん

連日満席のフレンチレストランやフレンチビストロで約15年間、料理人として腕をふるう。2016年に家事代行マッチングサービス・タスカジに登録すると「レストランの味が家で食べられる!」と予約殺到。家にある材料で作る、フレンチメインの作りおきおかずが評判となり、テレビや雑誌に多数出演。それぞれの家庭のライフスタイルに合わせて、好みの味に仕上げてくれる。

志麻さんも登場するレシピ本『伝説の家政婦が教える 魔法の作りおき』(主婦と生活社刊)については、コチラもご覧ください。

取材・文/さくまえり 撮影/中垣美沙