子どもを産み、育て、母となったことで実家の母と接することは多くても、父との距離って、相変わらずだったりしませんか? だからこそ、来たる6月17日の「父の日」に普段いえない感謝の気持ちを、形にして伝えたい。

 

いざなにかを話そうとすると、どこか気恥ずかしい。 近い存在であるのに、積極的に会話をすることがない父親。 “忙しい”という言い訳でつい見過ごしてしまう、父の日。 だからこそ、今年こそ。 父の日に、普段言えない“ありがとう”を。

 

今回の「父の日、私のストーリー。」特集では、 “父への贈りもの、何がいいかな”と考えたときに思い浮かぶモノにまつわる仕事をする女性が登場。 ご自身の父親とのエピソードや贈りたいモノの話を聞きました。

 

[EPISODE1]

ブックアドバイザー・木村綾子さんの「私と父親」

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“父への贈りもの、何がいいかな” そう考えたときに思い浮かぶモノのひとつに「本」があります。 読書とは、父親世代にも通ずる普遍的な娯楽。贈るほうも受け取るほうも気負わない金額感であることや、贈る人の趣味嗜好に合わせて選びやすいことで、「父の日」ギフトとしても候補にあがりやすいモノのひとつです。 そこで今回は、「本」に詳しい女性にインタビュー。作家であり下北沢にある「本屋B&B」のスタッフ、そして本にまつわる数々のお仕事をしている木村綾子さんに、お父さんのことや父の日に贈る本のお話、聞いてきました。

 

|少しずつ変わっていく、父親像

木村綾子

うちの家庭は、いわゆる古い時代の家。父親が外で働き、家のことは母親がすべてやっていました。そんなこともあり、一緒に暮らしていたころは父親に対して「怖い」というイメージが強くて。父に抱く感情は「威張っていてヤダな」「お母さんがかわいそう」……といったものでした。

 

 19年前に静岡の実家を出て、東京へ。離れて暮らし、仕事をし、そして自分が子どもだった当時の父親の年齢になり。いろいろと経験するうちに、「厳格に振る舞うことで、父親は自分なりに手探りで父親の役割を果たしていてくれたのかな」と思い始めました。私は3人兄弟なのですが、3人を養いながら働くことって、すごく大変で我慢することも多かったんじゃないかなって。家を離れてはじめて、そうやって父親と向き合うようになった気がします。

 

昔は「自分はなんでも知っている」と振舞っていた父親。最近では歳のせいか、「これわからないから教えて」など素直に言ってくるなど、まるくなったんです。「なんか、知っているお父さんじゃない」と寂しさを覚えることも。だからこそよけいになのかな、父の日もそうですし、こまめに連絡をするようになりましたね。

 

今では、父のFacebookをよくのぞきます。母と旅行に行った写真をあげてたり。両親がけんかしていた子ども時代の記憶もありますが、いまは「仲よしなんだな〜」と。最近では、そんな父の可愛い部分が見えてきました。子どもが巣立って、ふっと力が抜けたのかなあ。これからもっと関係性が変わっていくのかな、それも楽しみです。


 

|岐路に立ったとき、選択の自由をくれる。それが父

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私は3人兄弟で、兄と弟との真ん中の一人娘。兄と弟はすでに結婚をして子どももいるのですが、私はいまだに東京暮らしで、独り身で。気ままに生きているのでがっかりもさせているかな、と思いきや、「いつまで東京にいるの」「いつ結婚するの」と言う母親に対し、「おまえが楽しい人生ならそれを選べばいい」と言ってくれるのが、父親です。

 

いままでもそうでした。節目で岐路にたったときに、選択の自由を与えてくれる。小さいころはあんなに頭でっかちに思えた父親が、いざというときは、背中を押してくれる。もしかしたら、自分が選べなかった未来みたいなものを、私に託してくれているのかな。

 

|定年し、時間ができた。だから、本をじわじわと……

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私は本に関わる仕事をしているので、父には本を贈りたいのですが……。父親はあまり読書をしないんですよね。だから、父の日をはじめ贈るものといったら、一緒に楽しめる「お酒」が多かったです。きっとこれまでずっと働きづめで、本をゆっくり読む時間なんてなかったんじゃないのかな。

 

去年の夏に定年し時間のある生活になったので、やっと本がすすめられます。自分の趣味を一緒に父と共有できるなんてうれしい! これからは本をじわじわと贈っていきます(笑)。

 

読書初心者は、趣味がらみのキーワードから入るととっかかりやすい。ボケてもらっても困るんで(笑)、父が好きそうなジャンルのキーワードの入った本を贈るつもりです。

 

ブックアドバイザーが
父の日に贈りたい本


|コーヒー好きの父へ贈りたいエッセイ『珈琲が呼ぶ』

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父がようやく仕事から離れて、平日の昼間に1人で過ごす時間がやっとできた。ゆっくりコーヒーでも飲みながら読んでもらいたいな……ということで贈りたい一冊が、『珈琲が呼ぶ』(光文社)という片岡義男さんのエッセイ。コーヒーにまつわる話の短編集で、ちょうどコーヒー一杯を飲むくらいの時間で一話を読めるんです。これまでは、朝出がけにコーヒーを飲んで会社に急いでいく父の姿しか見てこなかったので、定年して時間ができた今は、ゆっくりとコーヒーを飲んで欲しいなって。

 

さらにこの本が父にぴったりだなと思うのが、音楽や映画の話が出てくるところ。著者の片岡さんと父の年齢が近いので、本に出てくる片岡さんの見た景色と父が見てきたであろう景色が重なる部分があると思うんですよね。本をきっかけに「あの映画もう一回見たいな」「ゆっくりレコードを聞きたいな」と思ってもらいたいです。

 

|絵本『はじまりの日』で、孫に読みながら昔を懐かしんで欲しい

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父は孫をすごく可愛がっているんですが、どうコミュニケーションを取っていいのかわからない部分もあるみたいで。だから「孫と一緒に楽しんで」という意味で、絵本を贈りたいと思っています。

 

ボブ・ディラン作の『はじまりの日』(岩崎書店)という絵本があるんですけど、これなら、孫に読み聞かせながら、音楽好きの父も楽しめそう。ボブ・ディランの『FOREVER YOUNG』という曲をもとに描かれていて、歌の世界に登場するモチーフがいくつも出てきます。ストーリーも前向きで素敵なんですよ。

 

大人が子どもに絵本を読むのって「子どものために」となりがちですが、やさしい言葉でかかれているからこそ、大人にも響くことってあると思うんです。子どもと一緒に読みつつも、それぞれ頭には違うものを描く、なんていうのもいい。『はじまりの日』を孫に読みながら、父の頭のなかにはディランの歌が流れるんじゃないかな。そして孫が大きくなってディランの音楽を聞いたとき、「あっ、絵本の歌だ」と思うはず。そんな、世代を超えて楽しめる一冊だと思います。

 

|どんな本を贈ればいいか、迷ったら

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父親のちょっとでも興味のあるものをキーワードにすると探しやすいのでは?と思います。本選びのキッカケに、「最近どう?何してる?」と近況を聞いてみると、選ぶ本の手がかりになるキーワードが出てくるかも。思いつかない場合は、父親世代の象徴のキーワードで探すのもいいですね。「タバコ」とか、「背広」とか。「ガーデニング」「落語」など、趣味にまつわるものも贈りやすいです。

 

あとオススメなのが、生活スタイルに寄り添ったことをテーマにしたもの。たとえば「散歩」。親世代って、散歩好きじゃないですか。『ニッポン線路つたい歩き』(カンゼン)は、『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之さんが、線路をつたって自由に散歩するなかで出会った人やモノ、コトなどを語っている一冊。読むことで、知っている土地はもちろん、知らない土地についても歩いてみようかな……と思うキッカケにしてもらっても、いいですよね。

 

本っていろいろな出会いの、ほんのキッカケだと思うんです。読むこと自体を楽しむのもそうですけど、読むことによって景色が思い浮かんだり、何かの原動力になったり。そんなところも含めて、父の日に本を贈ってもらえるといいなと思います。

 

 

 取材・文/松崎愛香 撮影/斉藤純平