タイトルを見て「本当?」と思った方も多いのでは。理屈からいくと、新幹線の車両は京急(京浜急行電鉄)や阪急の線路を走れます。一方、新幹線の車両は在来線の線路を走ることはできません。今回は知っているようで知らない線路の幅をめぐるお話をしたいと思います。

在来線の線路幅と新幹線の線路幅は違う?

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さて、普段の生活の中で線路を見ることは少ないと思いますが、ぜひ、線路をマジマジと観察してみましょう。もし、新幹線に乗る機会があれば在来線と新幹線の線路幅を比べてください。

 

実は在来線と新幹線の線路幅は異なります。在来線の線路幅は1,067mmに対し、新幹線の線路幅は1,435mmです。在来線と新幹線の線路幅の差は368mmになります。30cmほどの違いですが、ずいぶんと違うように感じると思います。

 

一般的に在来線の線路幅(1,067mm)は「狭軌」、新幹線の線路幅(1,435mm)は「標準軌」と区分されます。つまり、世界的に見ると在来線の線路幅は「狭い」ということです。

 

ところで、先ほど「新幹線の車両は在来線の線路は走れない」と書きました。鉄道を知っている子供ですと「在来線を走っている山形新幹線や秋田新幹線はどうなるの?」と質問するはず。実は山形新幹線の車両が乗り入れている奥羽本線の一部(福島~山形~新庄)や秋田新幹線の車両が乗り入れている田沢湖線(盛岡~大曲)、奥羽本線の一部(大曲~秋田)の線路幅は1,435mmです。新幹線の車両に合わせて、これらの在来線は線路幅を1,067mmから1,435mmに変更しました。

 

すべての線路幅を変えるわけですから、工事は長期間にわたりました。もちろん、これらの在来線を走る普通列車は1,435mmが走れるような車両になっています。また、北海道と本州を結ぶ青函トンネルは北海道新幹線と在来線を走る貨物列車が走れるように、3本の線路(1,435mm用と1,067mm用)があります。このように、在来線に新幹線を走らせることは本当に大変な工事が必要です。

 

「だったら、最初から在来線も1,435mmにすればよかったのに…」と思うかもしれません。明治時代、鉄道を建設するにあたり、国は1,067mmを採用しました。なぜ、最初に国が1,067mmを採用したのか、諸説ありますが、正確な理由はわかっていないようです。

 

路線建設が進むにつれ、すべての国鉄の線路幅をスピードが出しやすい1,435mmに変更したいという声が出ました。しかし、コスト面からこの案は却下になりました。その結果、ほとんどの在来線は1,067mmになりました。

意外と多い? 新幹線と同じ線路幅を採用する私鉄

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在来線は1,067mmですが、意外と新幹線と同じ線路幅である1,435mmを採用している私鉄路線は多いです。関東大手私鉄ですと、京成と京急、関西大手私鉄ですと大阪メトロ、近鉄(一部路線を除く)、京阪、阪急、阪神が1,435mmを採用しています。ですから、理屈でいうと新幹線の車両が京急や阪急の路線を走ることは可能です。ただし、新幹線の車両は長いので、実際に私鉄の路線を走るとホームや建物にぶつかってしまうでしょう。

 

それでは、なぜ私鉄は1,435mmを採用しているのでしょうか。ひとつには1,435mmのほうが1,067mmよりもスピードが出しやすく、安定した乗り心地が期待できるからです。また、JRとの競争が関東よりも激しい、関西で1,435mmの線路幅を採用している会社が多いのも、興味深いところです。

1,067mm、1,435mm以外にもいろいろな線路幅がある?

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さて、日本にある多くの鉄道路線の線路幅は1,067mmもしくは1,435mmです。しかし、1,067mm、1,435mm以外の線路幅を採用している鉄道路線があります。その代表格が京王電鉄です。京王電鉄京王本線の線路幅は1,067mmと1,435mmの間をとった1,372mm! 「なぜ、こんな中途半端な線路幅なのだろう」と思うかもしれません。

 

昔、京王本線は東京市電(東京都電)に乗り入れる計画がありました。当時、東京市電の線路幅は1,372mmだったので、京王もその線路幅に合わせたわけです。

 

ところで、京王に乗り入れる都営新宿線の線路幅も1,372mmです。今度は都営新宿線が京王本線に合わせたわけですね。 一方、三重県を走る三岐鉄道北勢線や四日市あすなろう鉄道の路線は762mmを採用しています。

 

1,067mm以下の線路幅を採用した鉄道は「軽便鉄道」と呼ばれ、昭和の時代には地方で多くの軽便鉄道が見られたものです。しかし、線路幅762mmですと、スピードが出せないため、車に負けてほとんどの軽便鉄道が廃止の運命をたどることに。三岐鉄道や四日市あすなろう鉄道の路線も廃止の噂はありましたが、必死に頑張っています。

 

三岐鉄道北勢線の起点駅、西桑名駅周辺にある踏切(西桑名第2号踏切道)では762mm(四日市あすなろう鉄道)、1,067mm(JR東海)、1,435mm(近鉄)と3つの線路幅を同時に渡ることができます。

 

このように「標準軌」「狭軌」「ナローゲージ」が同時に見られる踏切は全国広しといえども、ここだけ。機会があれば、線路を渡りながら、線路幅を観察してください。 最後に線路幅を観察するにあたって注意点をひとつ!プラットホームから線路幅を観察する際は必ず黄色い線の内側から観察してください。

 

取材・文・撮影/新田浩之