大雨のイメージ画像

突然の大雨や台風に襲われても、経験上とくに危険な目に遭わなかった。しかし、これまで被害が少なかった地域でも規模の大きい風水害は確実に増えています。いざというときにパニックにならないために、家族で話しておくべきことを防災士の上沢聡子さんが解説します。

避難路を家族で話し合っておくのが安全への第一歩

ウェザーニューズによると、2021年のゲリラ豪雨発生回数は全国で6万回以上。同社の調査回答者の55.1%が、屋内を含めゲリラ豪雨に遭遇しています。

    

自宅にいて「浸水したら…」「避難したほうがいい?」と不安を感じても、その場でやり過ごした方もいるかと思います。

 

これは正常性バイアスと呼ばれ、誰もが経験する心の動き多少の異常事態が起きても、「まだ大丈夫」と平静を保とうとします。

 

自宅にいて逃げ遅れやパニックを防ぐためには、とるべき行動を普段から家族で話し合うことが大切です。

 

まずは各市区町村のウェブサイトで閲覧できるハザードマップで、自宅の浸水・土砂崩れのリスクなどが把握しましょう。

 

家族でハザードマップを見て、避難所までの経路を点検すると具体的な行動がイメージできます。    

 

例えば、指定避難所は浸水想定区域外にあるか、自宅から向かう途中にアンダーパス(交差する鉄道や道路などの下を通過し、周辺の地面よりも低くなっている道路や地下道)や川辺、崖沿いなど危険な箇所を通らないか、などがチェックポイントです。

 

2022年の内閣府調査によると、指定避難所の約3割が風水害による浸水想定区域に立地しています。

 

家族で散歩しながら、避難所までの道のりを実地確認できると安心ですね。 

避難タイミングの判断は、この2つで

避難するべきかしないべきかの判断には、以下の情報が役に立ちます。

 

まず市区町村が出す避難指示です。風水害による被害が想定される地域に住まいがある小さい子ども連れの家庭は、避難指示の「高齢者等は避難(警戒レベル3に相当)」で避難するよう求められています。

    

次の避難指示(警戒レベル4に相当)になったら、全員避難する必要があります

 

気象庁のサイトやアプリの「キキクル(危険度分布)」でも避難の判断ができます。

 

「キキクル」は、土砂・浸水・洪水の各災害発生の危険度を5段階に色分け区分。

 

それぞれ色分けして地図上に表示し、どの場所で、どのくらい災害の危険度が高まっているか、数時間先までの土砂・洪水災害の危険度を示します。

 

「キキクル」の薄い紫は市町村からの「避難指示(警戒レベル4に相当)」、赤は「高齢者等は避難(警戒レベル3に相当)」に対応します。

 

「キキクル」で最も危険度が高い、濃い紫が地図上に出現するまでに避難完了しておくことが重要です。

 

大雨・台風での避難は、「浸水・冠水する前に」「雨風がひどくなる前、明るいうちに」が鉄則です。

 

大人の膝の高さまで水が来ると歩行が困難になり、水圧でドアが開きにくくなります。

 

冠水してからの移動は大変危険。道路が冠水すると、マンホールや側溝用水路に気づかずに落ちてしまうことがあります。

 

どうしても冠水地帯を移動しなければならないときは、たたんだ傘などを杖替わりにして足元を探りながら歩くといいでしょう。

 

夜など暗くなってからの避難を避けるため、避難指示は時間的余裕をもって昼間に出されます。雨風のピークより前の明るいうちに、早めの行動を心がけましょう。 

大雨や暴風の避難時に身につけさせたいもの

「雨のときは長靴」をはくイメージがありますが、避難時はNGです

 

内閣府の防災情報ウェブサイトにも、長靴で避難した際に歩きづらくて困ったという経験談が掲載されています。

 

普通の長靴では水深により、水が中に入って重みにより歩けない、もしくは長靴が脱げる可能性があります。

 

そのため、一般的に履き慣れた運動靴が推奨されています。サンダルは怪我につながりやすいので避けましょう。

 

風が強いときはいろんなものが飛んでくるかもしれないので、お子さんは自転車用ヘルメットをかぶると安心です。

大雨や台風で避難する際にNGな服装

また、傘はささずに、レインコートを来て避難します。避難途中や避難所で必要になるかもしれないので、抱っこひもの赤ちゃんにも靴を履かせるといいですね。

 

着替え類は、ビニール袋に密封してリュックに入れます。リュックなら両手が空くので、お子さんと手をつなぐことができます。

 

避難行動中は複数人で行動するほうが安心。「行方不明」「転倒」「怪我」などのときに助けを呼びやすいからです。

 

なるべく家族と避難したいところですが、避難のタイミングを逃さないように、出勤中のパートナーをいつまで待って避難するのか、各自が個別に避難場所に行く場合はどの避難場所で待ち合わせるのか、などを事前に決めておきましょう。 

「避難中です」と貼り紙をしてはいけない

大雨で避難する際、余裕があれば、以下をこころがけましょう。

 

断水対策:浴槽などに水をためておく。

停電対策:通電火災を防ぐため、ブレーカーを落とす。

※停電復旧時の火災発生が数多く報告されています。

浸水対策:戸建てやマンション低層階の場合、家電や重要なものを23階以上に移動。

空き巣対策:「小学校に避難しています」などとドアに貼るのはNG。ひと目で留守と分からないようにして、周囲には個別連絡で避難を知らせます

 

普段から避難タイミングや経路について考えておくと、いざというときに行動しやすくなります。大雨シーズンを前に、家族と話し合ってみませんか。

 

PROFILE   上沢聡子さん

上沢聡子さんプロフ画像

小学1年生の子どもがいる防災士。「赤ちゃんとママの防災講座」主宰。大阪で阪神淡路大震災を経験。「第9回健康寿命をのばそう!アワード」母子保健分野団体部門厚生労働大臣賞優秀賞を受賞。   

文/上沢聡子 イラスト/pum