ITやテクノロジーを用いて育児をサポートするベビーテックは、赤ちゃんの困りごとや不安を支援するだけのツールではありません。産後うつ、家庭での虐待、男性の育児不安など、じつは親の課題解決にもつなげる意味合いがあるようです。
ベビーテックは“育児の共感”も生み出せる
2020年10月に発表された筑波大学の松島みどり准教授の調査によると、産後1年未満の母親のうち産後うつの可能性がある人は25%。
通常の10%程度に比べると、コロナ禍により大幅に増加したそうです。
子育て世帯にとっても大変な環境は依然続いていますが、専門家や子育て当事者の評価に基づく「ベビーテックアワードジャパン」を主催する永田哲也さんは、ベビーテックがコロナ禍の子育ての一助になったといいます。
「この2年間で、オンライン診療や育児関連アプリが一気に普及しました。
特に、感染を心配して受診できない方には、いつでもオンラインで医師に相談できるアプリが重宝されました」
子育て広場などが利用できず、育児仲間ができない悩みも増える中、子どもの年齢や地域、興味・関心をもとにしたママ友マッチングアプリが悩みの解消に一役買うなど、細やかなニーズに応えるサービスが続々と開発されました。
「一時的に、似た境遇のママと悩みやグチを共有したい方には、『話してスッキリ』という妊活・妊娠・子育て中女性限定のおしゃべりアプリが人気です。
それぞれの立場(妊活中・ひとり親・地方在住・姑との同居等)や、子育ての状況(子どもの年齢・人数・保育サービスの利用等)をふまえ、システムがその瞬間にチャットや通話可能な最適な相手とつなげてくれるアプリです」
このアプリの運営会社は、身分証の画像提出により性別確認を行い、ユーザーを限定することで安全性にも配慮しています。
「知識や問題解決が目的ではなく、同じ立場で“共感してほしい”、“不安や楽しさを分かち合いたい”ニーズに応えることで『私はひとりじゃないんだ』と感じられるのが、既存のサービスにない良さです」
パパが不自由しない環境づくりをベビーテックが支援
政府は現在一桁の男性育休取得率を、2025年までに30%に引き上げることを目標にしています。
しかし、現行の施設やサービスはほとんどがママ向け。赤ちゃんを抱えたパパは、オムツ替えできる場所や情報を求めてさまようことも珍しくありません。
「やむを得ず男性トイレの個室でオムツ替えするケースもあり、男性トイレにオムツ替え台がある大規模商業施設にしか行けないパパはまだ多いです。
ベビーテックはそんな男性育児の課題解決の一助にもなります。
たとえばスマホ向けサービスの『NAVITIME for BABY』を使えばベビーカー、抱っこひも、一緒に歩くなど移動手段に合わせた最適なルートも検索できます。
男性トイレや多機能トイレのオムツ替え台の有無や口コミまで表示されるんです。
2021年、ベビーテックアワードジャパンの授乳と食事部門の大賞にも輝いたサービスですが、これなら父子だけでも安心して外出できますよね」
父子だけの外出、パパ育児支援に関する商品やサービスは、まだそれほど多くはありません。
「ベビーテックによって、パパが赤ちゃんと安心して外出できる自信や行動範囲拡大を後押しできるといいですね」
「うんち」の予測ができれば虐待防止になる?
ベビーテックには、「テクノロジーを活用して、育児の効率化を進める」イメージを抱きがちですが、乳幼児との日常に潜む不便さや戸惑いにアプローチするものも多いようです。
「うんちやおしっこは漏れても仕方ないとはわかっていても、一日に何度も汚れた衣類の洗濯に追われ、赤ちゃんも泣き止まないと耐えられなくなることがありますよね。
ベビーテックにより排便などのタイミングが予測できれば、親は早めの対応もできますから、育児のストレス緩和にもつながると思います。
排便や発熱の時間を予測することはこれまでは難しいと思われてきました。それが、データを分析することにより、少しずつ可能になってきており、実用化もされています。
こうしたベビーテックの取り組みが親の気持ちの安定につながり、親の負担軽減になり、ひいては虐待防止にも繋がると信じています」
2022年、政府は地方自治体・ユーザーとともにベビーテックの実証実験を開始しました。地方へ、パパへ、そして孤独や難しさを感じる親へ、ベビーテックは希望の灯火になるでしょう。
PROFILE 永田哲也さん
株式会社パパスマイル代表取締役。長女誕生を期に、同社を設立。2017年にベビーテック専門WebメディアBabytech.jpを開設。2019年よりベビーテックアワードジャパンを開催。
取材・文/岡本聡子