自分のほうが稼いでいるから、共働きであっても家事や育児は妻が多く負担するのが当たり前。

 

そう考えている男性は決して少なくありません。実際、そうしたバランスで上手くいっている夫婦もいます。一方で、収入格差やジェンダーの固定観念に縛られて、「夫と対等でいられない」ことに不満を抱えている女性たちもいます。

 

『これからの男の子たちへ』が11刷のロングセラーとなっている弁護士の太田啓子さんにお話を伺う全3回のインタビュー、第2回は夫婦が本当の意味で対等なパートナーになるためにできることは何かについてお聞きします。

世代で異なる男性のジェンダー意識

── 『これからの男の子たちへ』を読んでいると、男の子をどう育てるのかと同じくらいに、子育てのパートナーである夫にもジェンダーの価値観をアップデートしてもらう必要性を感じます。

 

太田さん:

家庭内のジェンダー平等は難しい問題ですよね。男の子にとってお父さんはロールモデルになりますから、今まさに子育てをしている父親の方々は大急ぎでジェンダー観をアップデートしていく必要に迫られているのではないでしょうか。

 

周囲の男性たちを見ると、世代による一定の傾向はある気がしています。30代以下の若い世代は、ジェンダー平等の建前は「前提」として共有している印象を受けます。保育園の送迎も交代で行くし、家事の分担も当たり前にできている夫婦が多い。

 

これが50代より上になると「女性の皆さん、輝いてください!」と牧歌的に言ってしまうような男性の割合がグッと増えます。これは決して彼らが悪いのではなく、社会の構造的に「会社員と専業主婦」という家庭の形が圧倒的多数だったからです。働き続ける女性の割合は少なく、多くの女性もそれが当たり前だと思ってきた時代背景があります。

 

40代男性はちょうどその狭間ですね。家庭科が男女共修化された以前と以降の世代では、うっすらとした境界線がある気もしますが、だからこそ異なる価値観の真ん中で宙ぶらりんになって迷っている世代ともいえます。これは男性だけでなく、女性も同じです。

 

── 2022年4月からは育児・介護休業法が改正され、男性にも育休取得の意向確認が義務付けられるようになりました。これも長い目で見ると、ひとつの境界線になるかもしれません。

 

太田さん:

日本の男性の育休取得率は12.65%とまだまだ低いですよね。背景にあるのは、「男性は私生活を犠牲にしてでも仕事を頑張らなければいけない」という社会のジェンダー規範です。

 

結果、妻に家事・育児のしわ寄せが来て負担が増加してしまう。外で賃金を稼ぐ仕事と違って、子育てやそれにまつわる雑務、介護などのケア労働は価値が低く見られているのが現状ですから。

 

当事者である男性たちが動かなければ、この構造はなかなか変わりません。今の30代が意思決定層に代替わりする20〜30年後には放っておいても社会は変わっていると思います。ですが、そのペースでは遅すぎて日本が滅びてしまう。もっと変化の速度をアップしていかないと。

男性にも職場で発信をしてほしい

── 一時期は育児や家事ができない夫をとにかく褒めて育てよう、という「夫育て」がもてはやされましたが、それだと女性側が一方的にコストを負う形になってしまいます。不公平感がない形で、男性側に変わってもらうためにはどうすればいいと思いますか。

 

太田さん:

まず、家事・育児の分担に関しては、不均衡な現状を可視化・共有化していくことがポイントになると思います。

 

「見えない家事」をリスト化して、夫と妻でどれだけ負担が違うかを目に見える化するという方法も今はメジャーになりましたよね。夕方6時から夜9時までのワンオペ育児がどれだけ大変でやることがたくさんあるかを夫に伝えるとか、そういう身近なところからまずは伝えていく。

 

ただ、「それは女性の仕事」だと思い込んでいる男性には、残念ながらまったく響かないでしょう。

 

子どもが生まれてからも自分はまったく働き方を変えずに、「仕事のつき合いだから」「義理があるから」と平気で夜の飲み会をバンバン入れる男性もいます。

 

── いますね…。職種や職場の雰囲気も影響していると思います。

 

太田さん:

そういう世界があることは理解できますが、結果としてはやはり女性ばかりが犠牲を強いられてしまう。

 

だからこそ、男性自身が「変わる」意志を自分から外に出していくべきだと私は思います。

 

相手が上司であろうと取引先だろうと、「今日は保育園のお迎えがありますので大変申し訳ないですが6時には帰らなければなりません」と自分からきっぱり言えるようにならないと。子育てをしている女性たちは、言いづらい相手に言いづらいことを、もうずっと言い続けてきたんですから。

 

── 確かに!

 

太田さん:

そうしたことを男性側に理解してもらうためには、やはり理不尽を共有してもらう必要があります。たとえば、夫が飲み会を入れた日をカレンダーで丸をつけて、妻も同じ回数だけ夜に外出できるルールを設ければいい。ワンオペ育児の大変さが理解できれば、次から夫が夜の外出を控える変化に繋がるかもしれませんよね。

 

こういった「どうすれば対等なパートナーシップを築けるか」といったテーマの記事を「読んでみて」と夫婦で共有することだって、アプローチのひとつになるはずです。

ジェンダー観をアップデートしている男性の共通点

── ジェンダーの価値観をアップデートできている男性たちに、共通点はあるのでしょうか。

 

太田さん:

ジェンダーの不平等についてストレスなく話せる貴重な男性の友人・知人に、「どうしてあなたは変われたのか?」と聞いたことがあります。

 

そうしたらほとんどの男性から「妻とケンカしたり妻に怒られたりしながら、少しずつ変わってきた気がする」という答えが返ってきたんです。さらに彼らは口を揃えて「いや、でも僕もまだまだわかっていない部分がたくさんあって」と言うんです。謙虚な人ほど、妻や周囲の女性の言葉を受け止めて、そこから学んで変わっていけるように感じています。

 

ですから、「自分のほうが負担を強いられている」と感じている側は、まずそのことを相手に伝えましょう。これは女性→男性だけではなく、男性→女性でも同じです。

 

ケンカや衝突を恐れずに、つらさや怒り、不満をパートナーに伝える練習をどんどん積んでいきましょう。夫婦に限らず、人間同士の関係性は自分から動くことで変えていける部分が必ずあります。そして夫婦間できちんと議論と交渉ができるようになれば、家族のかたちは必ずアップデートできるはずです。

 

 

続く第3回は、ジェンダー平等の理想と現実のギャップをどう埋めていくか、そしてウクライナ情勢から考えるジェンダー平等についてお聞きします。

 

PROFILE 太田啓子さん

弁護士。2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手掛ける。2020年に刊行された『これからの男の子たちへ』(大月書店)は22年4月現在で11刷のロングセラーに。

取材・文/阿部花恵