金融庁が発表した「高校生のための金融リテラシー講座」がTwitterで紹介され23万以上の「いいね」がつき、「わかりやすい」「大人も参考になる」など話題に。これらの資料の作成にも携わった大阪教育大学・鈴木真由子教授に金融教育について話を聞きました。
じつは金融教育は2005年から始まっていた
今年度から高校の家庭科で金融教育が始まると注目を集めましたが、じつは今から7年前の2005年からスタート。
日本銀行に事務局をおく金融広報中央委員会は2005年を金融教育元年とし、2007年には小・中・高等学校における金融教育の指導計画例を示しました。
そして今回、2017年から始まった学習指導要領改訂で小学校から高校まで、それぞれの家庭科のなかで金融教育を体系的に習得することが定められました。
「これまでも家庭科では生活設計をベースにした長期的なライフプラン、住宅ローン、年金の仕組みといった金融教育に関わる内容は長年扱われていました」
つまり、新しく改定された学習資料要領以前にも金融教育は含まれていて「使う」「貯める」「借りる」の3分野については既に学んでいましたが、高校の学習内容へ『増やす(資産形成)』が加わったことで、高校の家庭科で投資教育が始まると報じられました。
「投資というと高校生はデイトレーディングなどを想像しがちですが、そういった短期的な投資はごく一部です。
貯蓄や保険とは別の選択肢として、つみたてNISAのような長期的運用を前提にした投資などが加わったと捉えてもらえるといいのかなと思っています」
今回の学習指導要領で『増やす(資産形成)』が追加された背景には、低金利や年金受給開始年齢の引き上げ、社会保険料の上昇、インフレなど、わたしたちも実際に直面している問題が関わっているようです。
「わたしが大学生のころは預貯金の金利が6〜7%ありました。複利でどんどんお金が増えていく時代で『貯める=増える』状態。
そのため投資を視野に入れる人は少なかったですが、今は低金利などさまざまな事情が以前とは違いますので、こうした学習も必要になってきたわけです」
奨学金や借金についても学ぶ
2022年4月から成人年齢の引き下げにより18歳、高校3年生で成人になることも、新しい学習指導要領の変更に影響を与えています。
「18歳で成人に伴い、それまでに社会人としてふさわしい金融リテラシーを高める必要性がでてきました。
例えば、収入と支出のバランスやキャッシュレス決済、借金などの消費者教育に関する学習は、成人前の高校2年生までに終わらせるよう、学習指導要領に学年の指定が入りました。
また、借金の事例として子どもたちにとって身近な奨学金を例にあげる教科書も増えてきました。奨学金といっても返済不要の給付型、返済義務のある貸与型と2タイプがあります。
しかも、貸与型でも金利が0%のものもあれば、金利が発生するものもありますから。こういった情報を授業でも扱って理解を深めるようにしています」
今春から18歳で、親の同意がなくてもクレジットカードを作れるように。さらに借金の保証人にもなれるので、消費者教育について成人前に学んで備えておく必要があります。
クレジットカードの仕組みについては高校で習う内容でしたが、2021年4月より中学校の学習内容に変更になりました。
「自分のスマホを持つ子どもが増え、契約者である親のクレジットカードの情報が登録されていれば、親の知らない間にインターネットで買い物をしたり、ゲームの課金ができてしまいます。
そういったトラブルの多さからもクレジットカードの管理、また仕組みそのものについての学習は、義務教育期間の中学校で学ぶことになりました」
高校で学ぶ金融教育は6〜8時間程度?
それだけ重要視される金融教育。しかしながら全体のおよそ75%の高校では、その内容を教える家庭科の授業は1年間(2単位)しかないと推測されています。1週間で2時間の授業で、年間では70時間程度。
「家庭科には金融教育のほかに、食生活や衣生活に関わる実習などの実践的な学習もありますし、保育園や高齢者施設に行って子どもや高齢者と関わるような体験的な交流の学習もあり、学ぶ内容は多岐にわたります。
『使う』『貯める』『借りる』そして今回新しく追加した『増やす(資産形成)』も含めた金融教育に充てられる時間は、70時間のうち6〜8時間程度ではないでしょうか」
さらに、教育の現場ではまだまだお金の話をタブー視するようなところもあるそう。
けれども、「子どもたちが普段から使う交通系ICカードなどのプリペイドカードや、奨学金など身近な話として、自分ごととして、お金について学べる環境を先生方にもつくってほしい。家庭でもお金のことを話題にして子どもと一緒に考えてほしい」と鈴木教授は願っています。
金融庁が公開する「高校生のための金融リテラシー講座」は大人にもためになると話題になりました。
これらのYoutube動画や資料を見て、家庭でも親子で金融リテラシーを高めていくことが今後はより大切になるかもしれません。
PROFILE 鈴木真由子さん
金融庁の高校家庭科における金融経済教育アドバイザリーボード。大阪教育大学で、家庭科教育のカリキュラム、方法論、内容論について学校教育現場と連携しながら研究を展開。また、生活経営的視点で「消費」「いのち(性・生・死)」「ジェンダー」を切り口にした授業づくり、教材開発に取り組む。
取材・文/清宮あやこ