ウサギのシロちゃんと暮らす漫画家の三上骨丸さん。シロちゃんのママウサギであるモチちゃんとの出会いをきっかけにウサギに魅了されていきます。そんな中、どうしてマンガ『ウサゴク~極道、ウサギも極めます〜』(コンパス)を描き始めたのか、描いていく中でますます深まっていく“ウサギ沼”の魅力について聞きました。
かわいいだけじゃない、ウサギの現実
── ウサギを主人公に漫画を描こう、と思われたのは何かきっかけがあったんですか。
三上先生:
僕が拾ったウサギさん、モチちゃんを動物病院に連れて行ったら、そこで妊娠しているのが分かったんです。そのときに、先生から「妊娠していたから捨てられたんだろう」という話を聞いて。
── ひどい…。
三上先生:
増えすぎて困って捨てられるのはよくある話、と聞きました。
それから、ネットニュースを見ていたら、実際にウサギにまつわるいろんな問題があったんです。
例えばペットでウサギがブームになったその3年後ぐらいに、公園で捨てウサギがたくさん見つかったとか…全然知らなかったけど、こんな問題もあったりするんだと思って。
── 悲しいけれど、そういう現実があるのは事実ですよね。
三上先生:
生まれた赤ちゃんはすごく可愛くて、みんなで微笑ましく暮らしているのを見ると、「この子たちが捨てられて、いらないものにされていたのか」と思って。この命から素敵な物語が作れたら、この子たちと出会えたこと、この子たちが生まれたことに、意味を持たせられるかもしれない、と。
…ちょっと大げさかもしれないですけど、物語が紡げたら素敵かな、という気持ちはありました。
── 三上先生の作品は、かわいいだけではなく、ウサギのいろんな現実が描かれているように思います。
三上先生:
実際に漫画を描き始めてから「ウサゴク」が始まるまでは結構月日は経ってるんですけど、
ウサギと暮らす中で蓄積していったかわいさとかリアルな部分とか、意外にウサギが持ってるセンシティブな部分とか。実はすごくデリケートで、安易に飼いづらい部分もあるということを正直に書くほうがいいのかな、と思ったんです。
ウサギを本当に飼いたいと思ってる人にとっても、逆にウサギにとっても不幸にならない。お互いがより深く仲良くなるために正しい知識があったほうがいいな、と。
── 実際に「ウサゴク」の中にはいろんなタイプのウサギさんが登場しますよね。
三上先生:
そうですね。ウサギそれぞれに個性があるから、かまいすぎないほうがいいこともあれば、たくさん撫でてあげたほういい、とか。自分が経験して、深くウサギを知ることで仲良くなれたので、その経験を描けたら、というのはあります。
ウサ飼い読者さんのおかげで描ける世界が広がった
── 実際に連載が始まってからの反響はいかがでしたか?
三上先生:
連載が始まるまでに、2巻の中盤ぐらいまでは描き貯めていたので最初は読者の方からどういう反応があるかちょっと不安な状態でした。
でも、いざ始まったら思った以上にうさ飼いさんたちがすごく反応してくださって。
「私もウサギを飼ってるんですけど、こういうお話あるあるです、わかります」とか「ウサギが誤解されないような描写入れてくださってありがとうございます」と言っていただけて。
正直シリアスな部分をどの程度書くのか、結構難しいところでした。
ウサギが可愛く、生きている姿はもちろん描きたい、と思っていたんですけど、リアルなウサギの状況を描いてどの程度まで理解されるか、と。でも、読者の方たちはこちらが伝えたいこと以上に、多くのことを感じとってくださったのは嬉しかったですね。
── リアルな生活を描くことで、ウサギの本当の姿を知ってもらうことに繋がる、ということですね。
三上先生:
そうですね。
うさ飼いさんの世界とウサギさんの世界、どっちも実は意外に描かれてないけど魅力的な世界なんだな、と思って。読者のみなさんが「ウサゴク」を読んで感じてくれたことを更に糧としてかなり書ける幅が広がっていったことは自分ですごく感じます。
── だからこそ、現実としてある辛い部分も描かれていらっしゃるんですね。
三上先生:
3巻では、多頭崩壊など残酷な部分であったり、あとはウサギがうっ滞になってしまったときにはどんなふうに強制給餌をするかについて描いています。そのあたりは読者の皆さんがうさゴクに理解があって、漫画を丁寧に読んでくれるから描けた描写ですね。
作品自体を、読者の方が可能性を広げてくれたな、と感じています。
ウサギ独特の仕草がたまらない
── ウサギに関する情報がたくさん描かれていると思うのですが、どのように知識は深められているんですか?
三上先生:
親戚の方がウサギに詳しいので教えていただいたり、あとは動物病院に行ったときにウサギに詳しい専門の先生からお話をお聞きさせていただいたり。
あとは自分で取材したところで感じたことや学んだことがほとんどですね。
── その中で新しい魅力や新鮮だった知識はありますか。
三上先生:
個人的に役に立ったのは、ウサギさんの主食であるチモシー(牧草)もみんながみんな好きではないということ。
牧草があんまり好きじゃないウサギさんがいたんですけど、牧草に食いつきが良くないときは牧草をレンジでチンして、焼きチモシーみたいにすると、風味が出て食べてくれるようになるんです。
── へえ、焼きチモシー!
三上先生:
あと、これはまた「ウサゴク」でも描こうかなと思っているんですけど、もう歯が悪くて牧草を食べるのが難しいウサギさんへのごはんのあげ方です。
ペレットっていうラビットフードがあるんですけど、それをふやかして、ミルミキサーで粉末状にしたチモシーを混ぜて食べさせてあげると腸内環境がよくなって、健康的な茶色いうんちに戻ったっていうことがあって、かなり助かりましたね。
牧草を食べなくなった時期にシロちゃんの腸内環境もよく保たれました。
すべてのウサギさんに適用できるかはちょっと自信がないんですけど、うちの子はそれで元気にやれています。
── 三上さんが感じているウサギさんの魅力や愛らしいな、と思うポイントを教えてください。
三上先生:
耳や顔のお手入れをしているウサギ独特の仕草も好きですし、ご機嫌だと僕の周りを爆走するのもかわいいですね。
あと、1秒前ぐらいまでゆっくり歩いてたのに次の瞬間にダッシュしたり、ひねりジャンプみたいをポンポンするんですけど、持久力がないので、さんざん走ってジャンプした後、いきなり自分の足元でパタンって倒れてひたすらなでろ、とせがんでくる。
本当に気ままに生きているのが嬉しいですね。
── かわいい。見ていると、知らなかった動きや、仕草がたくさんあるんですよね。
三上先生:
そうですね。まだウサギさんはペットとしての歴史がそんなに長くない。
完全な治療法や育て方も確定してないので、自分で学びながら、ウサギさんにより良い方法を探していけるんです。常に新しい発見があるのが、面白いなって。一緒に成長していける、飼い主とペットというよりは、一緒に生きてる者同士で、補い合える関係ができるのがすごく嬉しいですね。
PROFILE 三上骨丸さん
漫画家。2007年にジャンプスクエアにて『罪花罰』で連載デビュー。LINEマンガにて『ウサゴク~極道、ウサギも極めます』を連載中。作品に『ほねまる劇場』、『お恥美容室 サロン・ド・キリヒコ』、『当方桃太郎、全パート募集中』など。
取材・文/ふくだりょうこ