416日、ティラノサウルスの着ぐるみを着た大勢の人々が70メートルを全速力で走り抜ける「ティラノサウルスレース」が鳥取の大山で行われ、SNSを始め、さまざまなメディアで「シュールすぎる!」などと話題になりました。「なぜ、鳥取でティラノサウルス?」主催者の川本直樹さんに話を伺います。

開催理由は「特になし」も恐竜100匹が集結

ティラノサウルスレースの開会式の様子
記念すべき第1回「ティラノサウルスレース大山」開会式の様子

── なぜこのイベントを開催しようと思ったのでしょうか。

 

川本さん:特にこれといった目的はありません。以前、SNS上でアメリカの競馬場で「ティラノサウルスレース」が行われていたのを観て、これはおもしろいなと。いつか日本でできたらな〜くらいに思っていました。

 

ただ、レースに最適な場所は元々あったんです。今回の会場となったのは、僕たちがグランピング施設を運営している場所なのですが、そこは20000平米の広大な土地。山の中なので公共交通機関も通ってません。

 

不便ですが、四方を大自然に囲まれていて、開放感はあるんで恐竜が動き回るには最適な場所だなと。

 

コロナ禍になり、さまざまなイベントが中止になる中で、世の中の人々がちょっと疲れていることを感じていたので、元気を出すならティラノサウルスだろうと動き出しました。

ティラノサウルスレース開始前のラジオ体操
レース本番に向けてラジオ体操に励む恐竜たち

── 恐竜はどうやって集めたんですか。

 

川本さん:恐竜集めに利用したのはTwitterだけです。今年の2月末に、「ティラノサウルスの着ぐるみ(約5000円)を自前で用意」を条件に、ティラノサウルスレースの参加を募り、それと同時に、仲間と一緒にティラノサウルスの格好をして大阪の梅田や「太陽の塔」で有名な千里万博公園、鳥取砂丘など人が多そうな場所をうろうろして認知を高めていきました。

 

── 奇妙な人(恐竜)だな、と思われたりしませんでしたか?

 

川本さん:いや、相当思われていたと思います(笑)。ティラノサウルスの格好をしているとやっぱり皆さん、興味を持ってくれ、写真をSNSで投稿してくれる方もいて。それをひたすらリツイートしながらイベントの認知を高めていきました。

 

そのうちに、地元のローカル局、BSS山陰放送の方が見つけてくださって、最終的には全国放送でレースの模様が流れるまでに。自分でも意味が分かりません。

ティラノサウルスレースのスタート
位置について、よーいドン!

── 結局、当日は何匹の恐竜が集まったんですか? 

 

川本さん:元々、参加竜は上限100匹で募集していたので、100体ですね。319日の段階で募集人数に達しました。

 

地元の方や岡山など近県の方をはじめ、福岡や香川、遠いところだと山梨や埼玉から来てくださった恐竜もいます。元々の恐竜が好きな方や変なスポーツが好きな方もいらっしゃいますし、全国にいる鳥取出身で、長い間、帰郷できていなかったけど、このイベントの参加ついでに戻ってきた、という恐竜も何体かいました。

開催費用は自腹で40万円「投げ銭は雀の涙

ティラノサウルスレースの模様
ゴールを目指し、全力疾走!

── 実際イベントをやってみてどうでしたか?

 

川本さん:イベントに関しては完全に素人なので、予想外の出来事やハプニングばかり起きました。機材を忘れるなんて序の口で、仲間にカメラ撮影をお願いしていたのですが、結局人手が足りなくて雑用をやってもらったので、まともな写真が全然残っていません。

 

費用は全部で40万円程度かかったのですが、完全に僕の持ち出しで、まだ回収できていません。

 

当日、少しでも資金のたしになるならとYouTubeライブ配信で投げ銭システムを利用したのですが、集まったのは1万円ほど。世の中甘くないですね(涙)。

 

デザイナーの仕事もしているので、イベント用に恐竜のTシャツを作って、当日販売したのですがその売上がまずまずだったのは嬉しかったです。

 

ちなみに、優勝したティラノサウルスの賞品は、大山で農家をやってる友達からもらった白ネギと、地元猟師の方から頂いたイノシシの骨付きカルビブロックです。ありがたいことです。

ティラノサウルスレースで賞品をもらって大喜びするティラノサウルス
賞品をもらって大喜びするティラノサウルス

── 参加者のみなさんの反応は?

 

川本さん:レースに参加してくださった恐竜と観客の方合わせて300体くらい集まったのですが、皆さん盛り上げ意識が高くて、楽しむ気満々で参加してくださったのが良かったです。

 

たとえば、原始人の肉の模型を手に持ってきてくれたり、ギターを弾きながら登場したり、身体装飾を施していたり。その場にいる人、全員がキャスト状態でした。

 

「何がなんだか分からない」をコンセプトに始めたイベントですが、「笑ったー」「癒された!」という声をたくさんもらって嬉しかったです。イベント後も多くのメディアに取り上げていただきました。

 

改めてコロナ禍やウクライナ侵攻など暗いニュースの中、みなさん、フラストレーションが溜まっていて、明るいニュース、平和なニュースを求めていたんだなと思いました。

ティラノサウルスレースのスタッフ大集合
スタッフのみんなで記念撮影「がおー!」

── また何かおもしろいイベントをやる予定はありますか?

 

川本さん:「ティラノサウルスレース」に関してはまたやるかは未定ですが、このレースをきっかけにいろいろとお声がけもいただいていて、進行中の企画もあります。ティラノサウルス関連で近々お知らせできることがあるかもしれません。

 

今回、僕にとっての収穫は、「なんかよくわからないけど、やってみたらできた」ってことでしょうか。

 

イベントって「行政が動いてくれない」「お金がないからできない」とハードルを高く上げがちですが、スポンサーがついていなくても40万円で出来るんですね。全国で「ティラノサウルスレース」が始まったら面白いなと思うので、ぜひ皆さんにも挑戦してほしいです。

 

PROFILE 川本直樹さん

1987年広島県呉市出身。2015年から鳥取県大山町の制作会社にて映像制作に従事。独立後大阪に住まいを移し、鳥取と大阪の2拠点を行き来しながら「NACHOS video works」の屋号で映像制作やデザイン業務を行う。一番好きな恐竜はパラサウロロフス。