都心では年々、中学受験対策の低年齢化が進んでいます。そんな周囲の雰囲気に戸惑ったり焦ったりしてしまう親御さんも少なくないかもしれません。低学年から中学受験塾に通うべきか悩む親御さんに、教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生がアドバイスします。

Q】周りの子が塾に通い始めて焦る

地域柄、教育熱心なご家庭が多く住んでいることもあり、年々、低学年から中学受験塾に通わせている人が増えている気がします。このあいだは、息子と同い年の近所の小2の女の子が、中学受験塾に通い始めました。話を聞くと、中学受験は低年齢化が進んでおり、人気の塾の場合、2年生で入らないともう席が埋まってしまうとのこと。そんな話を聞くと正直、焦ります。

 

とはいえ、うちの子を見ていると、まだまだ野山を駆け回っているような子で椅子にじっと座って勉強なんて程遠い気がします。小さい頃から塾に通わせるメリットやデメリット、小さい頃から通うのに向いているタイプなどあれば教えてください。

低学年から塾に通わせるデメリットに注意!

おっしゃる通り、塾通いの低年齢化が進んでいるようです。そして、低年齢で塾に通わせている方の多くが先に「通わせたい塾」を決めてしまっているように見受けられます。「みんなが行っている塾」ありきで子育てを考えていて、我が子から目が離れているのです。

 

本来の順番としては「我が子の個性・特性を見つめながら家族で話し合った子育ての方針があり、それに合わせて塾を決める」ものであることを、まず間違えないようにしましょう。

 

だから、塾に通わせるかどうかも、親御さんの子育ての方針次第。通わせても通わせなくても、どちらでもいいと思います。

 

小さい頃から塾に通わせるメリットは、いくつかあります。

 

まず、周囲が勉強に取り組んでいるので、周りの友達に引きずられるようにして学習習慣が身につき、学力を高めていきやすいと思います。

 

親としても子どもの預かり場所ができるというありがたさがありますし、勉強が好きなタイプの子は塾の友達のほうが話が合って楽しいという場合があります。

塾に通う小学生

一方、デメリットは、点数や偏差値で物事を考える癖がつきやすいということ。子どもより、大人のほうがその価値観に染まりやすいので注意が必要です。

 

最初は習い事感覚で低学年から入塾させたとしても、毎回テストが返ってくるので、点数重視にだんだんと傾いてしまって、目先の点数を追いかけるばかりの近視眼的な子育てに陥る親御さんが、非常に多く見受けられます。

 

その結果、子どもに短絡的な勉強の癖がつくリスクが生じます。実際、低学年から塾通いしている子で、親御さんが「できた・できない」ばかりにこだわるケースでは、答えを写したりカンニングしてしまう子も珍しくはありません。

 

より心配なのは、勉強嫌いになるリスクです。「させられる勉強」に陥った結果、疲れてしまうんですね。小学4年生からスタートなら何とか耐えられるところもあるのですが、低学年から始めると、5年生くらいですでに疲れてしまうんです。

 

メリットを理解したうえで、デメリットを生まない関わりをするためには、親御さんもそれなりの知識を持ち、家庭それぞれの方針を定期的に見直していきながら塾側とコミュニケーションを取っていくといった努力が必要になります。

 

また、夫婦ともに塾勉強にのめり込んでいるケースでは、ブレーキ役がいないために時に親が暴走するリスクがあります。例えば、お母さんが毎日勉強を見ていて熱くなりがちならお父さんがクールダウンしてあげるなど、家族の役割分担にも意識を払いたいですね。最近は中学受験に熱くなるお父さんも多く、低学年から塾に通わせるのであれば、夫婦のバランスが取れるような環境をつくっていくことが大切になります。

子どもの学習タイプがわかると塾も選びやすい

ご相談者さまはお子さんについて、「野山を駆け回っているような子で椅子にじっと座って勉強なんて程遠い」とおっしゃっていますが、おそらく学習タイプでいうと体を動かしながら学びたい「身体タイプ」の可能性が高いと思います。

 

野山を駆け回っているから勉強しないのではなく、野山を駆け回りながらこの子なりの学びをしていると理解しましょう。おそらくお子さんは、具体物に触れるほうが理解が深まります。

 

だから、工作や実験など動きのある学習は興味を持ちやすいかもしれません。本を読むよりも、アニメや映像など効果音が入ったもののほうがイメージが湧く可能性があります。図鑑も実物大のものや、DVDが付いていたりQRコードで映像を見ることができたりするものなら楽しんでくれそうです。

 

こんなふうに体に伝わってくる感覚を大事にしながら学べばいいということを踏まえると、塾も選びやすいのではないでしょうか。

 

例えば、身体タイプの子は、おそらくオンライン授業はあまり向いておらず、リアルな息遣いが感じられる集団塾のほうが向いているでしょう。きっと淡々と教えてくれる先生よりも、身振り手振りで教えてくれる先生の方が合っている気がします。

 

選んだ集団塾がどうにも合わないようであれば、少人数塾や個別指導塾を考えるのも一つの選択です。その子に合わせた指導をしてくれる先生を比較的探しやすいため、お子さんなりの中学受験スタイルをつくり出せると思います。

 

PROFILE 小川大介さん

小川大介先生

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ