「ミラーニューロン」という言葉を聞いたことはありますか?
1990年代と比較的最近発見された脳の神経細胞の一種で、生まれたばかりの赤ちゃんから大人まですべての人の成長に関わり、コミュニケーションにも欠かせない働きをすることが分かっています。
今回は、ぜひ知っておきたい「ミラーニューロンを育児に生かすヒント」をお届けします。
ミラーニューロンとは
生き物の脳の中では「ニューロン」と呼ばれる神経細胞が互いに信号を送り合って、物事を考えたり、身体を動かすための指令を出したりしています。
100億とも1000億とも言われるこのニューロン(神経細胞)の一部の細胞では、自分はじっとしていても、相手の動きを見ただけで、その行動をしたときと同じ動きを再現しているそうです。
また動きだけではなく意図や目的・感情なども理解していることもわかっています。
この神経細胞の動きがまるで鏡(ミラー)のようであることから、「ミラーニューロン」、別名「ものまねニューロン」とも呼ばれています。
こういった神経細胞の動きが研究で確認されたのは1996年と比較的最近ですが、毎日の暮らしのなかでは昔から多くの人が体感していた現象なのではないでしょうか。
たとえば「師匠の動きを見て覚えろ」「子は親の背中を見て育つ」といった格言や、スポーツや芸術の世界でのイメージトレーニングなどがこれに当たります。
映画を見ていて、主人公が崖から落ちそうになるシーンで思わずガタッと身体が動いてしまう、痛そうなシーンでは眉をひそめる、悲しいシーンではもらい泣きしてしまう…といった感情移入もミラーニューロンのなせるわざといわれています。
似たもの同士の夫婦や友人どうしが一緒にいて落ち着くのも、自分とよく似た反応や行動を見ることで安心感が得られるからだと考えられています。
ミラーニューロンと育児にどんな関係があるのか
相手の動きを見て、自分も同じ動きを脳内で無意識に再現し、相手と同じ感情を抱く……これはズバリ「共感」だといえます。
共感は子育てでもっとも大切なことのひとつで、ママやパパが子供の気持ちや感情に共感してあげられるほど子供は安心してすくすく育つと言われていますよね。
同じく、子供自身もまわりの人の行動や感情をたくさん見聞きするほど共感する力が育ち、コミュニケーションが発達すると考えられています。
ミラーニューロンのしくみから見たおすすめの子供への接し方や、育児へのミラーニューロンの活用方法には以下のようなものがあります。
物事を前向きに楽しむ姿を見せる
ある実験では、親子を2つのグループに分け、親がおもちゃを箱から取り出す様子を見せた後でそのおもちゃで遊んでもらったそうです。
そのおもちゃは赤ちゃんにとっては少しがんばって押さないと音が鳴らないようになっています。
すると、親ががんばって箱を開ける様子を見ていたグループの赤ちゃんは、かんたんにサッと取り出したグループと比べて、おもちゃを一生懸命押して音を出したといいます。
つまり、新しいおもちゃを使い始める時は、使い方だけ教えて放っておくのではなく、しばらく一緒に取り組むようすを見せてあげると良いのですね。
また、掃除や料理など日常のちょっとした作業も、できるだけ「よーし、がんばって床をピカピカにするぞ」と声に出し、楽しんで取り組んでいる様子を見せてあげると、子供のミラーニューロンが反応する可能性が高まります。
興味関心を持ったら本物を見せる
図鑑で見た生き物や乗り物、スポーツや音楽など、もし子供が興味を持ったら、動物園や水族館、プロの試合やコンサートなどに連れていくとミラーニューロンが活発に働き、より知識を深めたり上達したりできるといわれています。
もちろん、せっかく遠くまで出かけたのに特に反応がない……というケースもありますが、それでも楽しい思い出にはなるので、期待しすぎず、なにかプラスになればラッキーくらいの気持ちでいるのがおすすめです。
形だけでもいいので笑ってみる
最近の研究では、店舗での接客時に笑顔で丁寧に接客すると、そうでない場合に比べてお客さんがお店にとどまる時間が長くなり、脳内でミラーニューロンが活動していることが報告されています。
さらに、接客スタッフがある程度「演技」で愛想良くしていたとしてもちゃんと良い影響があることも分かっているそうです。
ママ・パパだって仕事や人間関係で悩まされる日もあり、いつも上機嫌ではいられませんよね。
そんな時も「心から笑えない」と悩まず、軽く笑顔を作ってみるだけでも子供に良い影響を与えることができる……と思うと少し気が楽になるのではないでしょうか。
マイナスなものを見せすぎない
周囲が前向きに楽しく生きる姿を見せると、それを見た子供の脳に良い影響があるということは、逆もまたあり得るということですよね。
とはいえ「子供のためにどんなに悲しくてもいつも笑顔で前向き」というのはさすがに難しいもの。
しかし、ミラーニューロンの観点から見ると、子供はたとえ自分に向けられた攻撃や暴力でなくても、自分自身が体験したのと同じ脳の動きを再現してしまいます。
最低限、子供の前で激しい口論をしない、暴力的な映像・殺人や災害などの悲惨なニュースはできるだけ見せないといった配慮をしましょう。
おわりに
一見、難しい専門用語のように思える「ミラーニューロン」。
今回紹介したミラーニューロンの働きに関しても、まだ研究途中であり、解明されていない点も多いそうです。
しかし、難しく考えなくても、ミラーニューロンの働きとは「相手が笑顔なら自分も心地よく、不機嫌なら居心地が悪い」といった、誰もが生きていくうえで感じている当たり前の現象とも言えます。
そして、そういった共感の力は、脳の発達が著しい子供時代にたくさんママやパパと笑い合ったり、一緒に物事に取り組んだりすることで育つとも考えられています。
すぐに目に見える効果はないかもしれませんが、「いま子供の脳の中では、将来に向けて新しく神経がつながっているところなんだな」と想像し、良い見本となるような姿を見せていきたいですね。
文/高谷みえこ
参考/Rizzolatti、G.、Camarda、R.、Fogassi、L.etal 「マカクザルの下部領域6の機能的構成」 https://link.springer.com/article/10.1007/BF00248742#citeas