金利が低い口座にお金を預けておくよりも、投資による運用で少しでも増やせたらと思っている人も多いと思います。積立投資を有利に始められる制度に「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と「つみたてNISA」の2つがありますが、どちらを選べばいいのでしょうか。キーワードは「45歳」。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに詳しく伺いました。
2つの制度の仕組みの違いでわかること
将来や老後に備えるための代表的な制度として、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と「つみたてNISA」がよく取り上げられます。同時に2つを利用できるので、もちろん両方に上限の金額を掛けられるのであれば、備えとしてはそれがいちばん安心です。
しかし「上限まで掛けるのは難しい」「とりあえずどちらかだけでも始めたい」という人もいると思います。そのような場合は年齢をひとつの目安に、どちらを始めるか決めてみるのはどうでしょうか?
私は目安となる年齢は「45歳」だと考えています。45歳未満の人は「つみたてNISA」、45歳以上の人は「iDeCo」を優先するといいでしょう。
45歳が境になる理由は、それぞれの制度の内容やメリット、デメリットを知るとわかってきます。
つみたてNISAは年間40万円まで、非課税で投資ができる制度です。最長20年間、非課税で運用できるため、長い時間をかけて利益を得ることを目指し、資産形成することができます。
20歳以上(2023年からは18歳以上)であれば誰でも加入ができ、金融機関によっては毎月100円と少額から投資が可能。途中で売却することや解約することもでき、もしまた始めたいと思ったときに再加入することもできます。
投資商品も金融庁が「長期の積立・分散投資に適している」として定めた条件を満たす約200本にあらかじめ絞られているため、商品を選びやすく、気軽に始めやすい初心者向きの投資の制度と言えます。
一方、iDeCoは原則60歳以降に受け取ることのできる、私的年金制度です。20歳から加入ができ、掛金と運用して得た利益があれば60歳から給付金として一括や、5年以上20年以下の分割、一括と分割の組み合わせなどで受給できます。
iDeCoは一度始めると積立(拠出)したお金を、原則60歳まで引き出すことができません。また口座開設時のほか、毎月口座管理の手数料がかかるため、手数料の割合を低くするためになるべく多くの金額を積み立てたほうが合理的ともいえます。そのため、つみたてNISAに比べて手軽に始めづらい面もあるのです。
「45歳」がなぜ判断の分かれ目に?
ではなぜ45歳を境に、優先度が変わるのでしょうか?
ライフプランを考えたときに20代や30代の人は、結婚、出産、自宅購入など人生の大きなイベントがこれから控えていて、まとまったお金がいる人も多いと思います。そのため手元にある程度、いつでも使えるお金を置いておく必要があります。
iDeCoは60歳になるまで、給付金を受け取ることができません。そのため万が一、教育資金や住宅ローンでまとまったお金が必要になっても、途中で解約することができないのです。また20代、30代の人が60歳以降にしか受け取れないものを積み立てるのは、少し遠い未来に感じるかもしれません。
つみたてNISAは途中で解約ができ、そこまでに増えた利益があれば受け取ることができます。またいつでも再加入できるので、例えば子育てが落ち着いた段階で再び始めることも可能です。辞めるのにリスクがないので、若い人に向いている投資と言えます。
しかし45歳になるとそうはいきません。公的年金を受け取る65歳まで、あと20年しかありません。老後資金を貯めるのに、よりストイックな方法を選んでも良い時期といえます。
iDeCoは60歳から受け取れる私的年金としてはもちろん、掛金すべてが小規模企業共済等掛金控除の対象となるため、人生のなかで所得が多くなりがちな40代、50代にとっては節税効果も高くなる可能性があります。
「もし元本が減ってしまったら…」と不安な人は、運用商品のなかには「元本確保型」もあるので、既にある預貯金をiDeCoの「元本確保型」商品にスライドするだけでも、節税効果の分、有利な可能性もあります。
最終的には、つみたてNISAとiDeCoの両方を、上限額いっぱいまで取り組めるのが理想的ですが、今の家計に無理が起きないことも大切です。優先順位に迷ったときにはこうした視点も参考にしながら、無理のない選択からスタートし、少しずつ万全の体制に近づけていけるといいですね。
PROFILE 風呂内亜矢さん
取材・文/酒井明子