私たちの生活に欠かせないコーヒーですが、続々と各社から値上げが発表されています。どうしてコーヒーまでもが今、高騰するのか —— 経済アナリストの増井麻里子さんに聞きました。
ブラジルの不作でコーヒー豆が急騰
現在、コーヒー豆の値上がりが起きており、国際価格が1年で約2倍になっています。
原因はいくつかありますが、コーヒー生産国における作柄の悪化と減産がまず考えられます。日本人の多くは、上質な香りで酸味と甘みのある「アラビカ種」というコーヒー豆を好んでいます。その最大生産国がブラジルです。
ブラジルでは、2020年11月から降雨不足となり、さらには2021年7月に霜害が起こり、コーヒー豆の収穫量が減少しました。
コーヒーの木は多年性で、苗を植えてから3年目くらいから収穫が可能になります。収穫量が増える表年と、収穫量が落ちる裏年が隔年で訪れるのですが、2021年は裏年でした。
コーヒー豆の生産量第2位のベトナムがつくっているのは、「ロブスタ種」(カネフォラ種の一種)で、麦のような香りで苦みと渋みがあります。標高が低いところで栽培できることもあり、比較的安価です。2021年はアラビカ種と比較して値上がりが緩やかだったため、価格差が広がりました。ロブスタ種の国際価格は、コーヒーの果実を果肉付きのまま乾かすアラビカ種「ブラジルナチュラル」の2分の1以下となっています。
また、他の農作物の価格高騰と同じように、新型コロナウイルスの影響により人手やコンテナが不足。貿易上で混乱が起き、輸送費が値上がりしたことも影響しました。生産量第3位のコロンビアで、反政府デモが長引いたことも原因です。
すでに各社が家庭用コーヒーを値上げ
コーヒーの消費量が多いのは日本だけではありません。EU、アメリカ、ブラジルの順でコーヒー消費量が多く、日本は4番目で全体の5%程度です。中国も増加傾向にあります。当面、供給よりも需要の伸びが大きいことが予測されます。
実は日本国内でも沖縄や小笠原諸島で、コーヒー豆の生産は行われています。しかし、台風が直撃することも多く、大規模な生産が難しいのが現状です。
コーヒー豆の価格の値上がりは、すでに私たちの生活にも影響を与えています。大手コーヒーメーカー数社が、家庭用レギュラーコーヒー製品の価格改定を発表。価格を上げるほか、価格を上げずに量を減らすなどの対応をしています。
進む円安で先行きは不安定
では今後、コーヒー豆の値上がりが落ち着く気配はあるのでしょうか?
2021年初め、1ドル103円で取引されていましたが、4月には1ドル110円まで円安が進みました。輸入価格の上昇を受け、多くの国内企業がコーヒー豆を7年ぶりに値上げしたのが2021年9月です。
円安が進んでもすぐに値上がりするわけではなく、半年ほどのタイムラグがあります。しかし現在、1ドル130円(4/28日現在)とさらに円安が進んでいます。そのため、さらなる値上げも予想されます。
ブラジルの天候の影響も大きいのですが、こればかりは予測が難しいです。
過去には2014年にブラジルが干ばつに見舞われ、コーヒー豆の価格が高騰しました。そこで、コーヒーの木の植えつけが増えたのですが、今度は3年後の2017年に供給過剰により価格が暴落しました。
2018年からは豊作が続いており、コーヒー豆の価格は低い水準で推移していましたが、2021年は先ほども述べた理由で値上がりすることに。2022年3月になり、ブラジルナチュラルの価格が1ポンド222USセントと、前月の245セントから9.4%下落しました。1年半ぶりの下落となり、市場は少し落ち着いたようです。ロブスタ種も前月から5.1%低下し、104セントとなっています。
しかし、経済回復でコーヒーの需要が増え、円安も進む現状では、国内での値下がりは数年先になるかもしれません。
PROFILE 増井麻里子さん
取材・文/酒井明子