東京・町田市の庶民的な仲見世商店街に、恋愛相談に特化したカウンセラーがいます。
開業6年目の「Dr.Lilyの恋愛クリニック」の代表、ドクター・りりーさんです。
恋愛相談をはじめ、さまざまな悩みの相談を受けつけていて、女優や芸人さん、プロスポーツ選手も足を運んでいるそうです。
コロナ禍になり、他者との距離感が問題視された現在。男女を取り巻く環境は、変化しているようです。
新時代の恋愛問題を解きほぐすカウンセラーに、方法論やそれを確立するまでの紆余曲折の半生を伺いました。
コロナ禍で“出会えない”相談が増え…
──最近は、どういう恋愛相談が増えているのでしょうか?
りりーさん:
いちばん増えたのは、“出会いがない”という相談ですね。
感染予防対策で多くのイベントが自粛しているだけでなく、会社によっては会食禁止の指示が出ているので、コロナ禍以降、出会いの場が圧倒的に減ってしまいました。
だからといって、動かなければ何も始まりません。
出会いを求める相談者からの要望が増えたため、時期を見て感染予防対策もしたうえで、私が主催した恋愛イベントを開催するようにしました。
人数制限を設けていますが、早々に予約で満席になることからも、出会いを求める人々が多いことがわかります。
“自分が正しい”という相談者が多い
── りりーさんは結婚や夫婦の悩みなど、人間関係のあらゆる相談にのるそうですが、相談者に共通点はありますか?
りりーさん:
カップル・カウンセリングをするとよくわかるのですが、お互いに“自分の主張が正しい”というのが前提で、相談に来る人が多いですね。
しかし、両者の話をしっかりと聞いてみると、勘違いや思い込みが出発点になっている場合があります。
人は恋をすると、脳内にて神経伝達物質、いわゆる「脳内ホルモン」が分泌されるので、気分が高揚したり、興奮したり、逆に強い不安を感じたりします。
さまざまな脳内ホルモンが分泌されると、どんな人でも思考力が奪われて冷静な判断がしづらくなります。
恋愛とは、それほどパワフルなものなので、冷静な判断ができる私のような第三者を上手に活用してもらえたらと思っています。
よくある恋愛相談ベスト3の結果は…
── 令和時代の現在、よくある恋愛相談ベスト3をあげるとしたら、どういうものがありますか?
りりーさん:
第3位は婚活に関する相談で、冒頭に紹介した“出会いがない”というものですね。
これはコロナ禍になる前から一定数はあったもので、自分から行動をすれば、すぐに対処できます。
私の場合、出会いがないと言う人には、趣味や習い事を新しく始めて生活圏を広げることをお勧めしています。
第2位は、不倫や浮気に関する相談で“このままの関係を続けていいのか?”というものです。
みなさん、短期的な幸せや、目の前の願望・欲望ばかりに注目しがちで、“どんな人生を歩みたいのか?”という長いスパンで捉えてみるだけで、気がつくこともあります。
そこで、“今の幸せだけでなく、1年先、3年先、10年先でも今の決断が納得できるように考えてみて”とアドバイスすることが多いですね。
第1位は、失恋や復縁に関する相談で、“相手を忘れられない”というものです。
よくあるのは突然、音信不通になってしまったパターン。なぜ忘れられないかというと、自分の中で納得ができていないからです。
具体的なアドバイスは人それぞれですが、方向性としては、本人が納得できる方向に進むことですね。
恋愛中はどうしても主観的になりがちなので、現状を客観的に理解してもらって自分で区切りをつけられれば、次の恋愛に進むことができます!
──りりーさんが考える良い恋愛と、悪い恋愛の違いはなんですか?
りりーさん:
これはあくまで私個人の考えですが、良い恋愛とは“自分のことを好きになれる恋愛”だと思っています。
相手のことを好きになることで、プラスのエネルギーが生まれて日々が楽しくなる。そういう恋愛は幸せを感じやすいので、結果的に自分のことを肯定できます。
逆に、悪い恋愛とは“自分のことを嫌いになる恋愛”ではないでしょうか。
人は迷ったり悩みを抱いたりすると、気持ちが空回りして自分を否定しがちになります。
例えば“自分に魅力がないからだ!”“こんな性格だから、うまくいかないんだ!”とか、自己否定につながるような恋愛は、なるべく避けた方がいいと思います。
恋愛に振り回された過去があったから…
──そもそも、りりーさんが「恋愛クリニック」を立ち上げた理由を教えてください。
りりーさん:
カウンセラーという仕事に興味をもったのは、学生時代のころです。当時、好きだった彼がいたのですが、その人が心の病にかかって不登校になってしまいました。
でも、あるときから登校を再開したので、彼に話を聞いてみたら“休学している間にカウンセリングを受けていた”と打ち明けてくれたのです。
そのときに初めて「カウンセリング」という、心のケアする仕事の素晴らしさを知り、“カウンセラーになりたい!”と考えるようになりました。
──では、大学を出たらすぐにカウンセラーに?
りりーさん:
いえいえ、ここから紆余曲折がありました(笑)。恋愛相談を専門にしているのも、もともと私自身が、恋愛にのめりこみやすい傾向にあったからです。
実際、大学生のときにある男性と恋に落ちて、在学中に結婚して出産まで経験しました。
でも、お互いに学生だし、人間的にもまだまだ未熟。夫婦生活はすぐに破綻して、学生のうちにシングルマザーになりました。
生活費を稼がなくてはならず、学生なので勉強もしなければいけない。もちろん、家事や育児もしなくてはいけない。
ありがたいことに、大学卒業後に再婚することができましたが、若いころを振り返ると、恋愛に子育てに仕事にと、目の前のことでいっぱいいっぱい。
正直、カウンセラーの夢は完全に忘れていましたね。
整体師の仕事で相談にのるように…
──そのころは、どんな仕事をしていましたか?
りりーさん:
手に職を持ちたかったのと、誰かのためになる仕事をしたくて、整体師の仕事を始めました。
施術中はお客様と会話をするのですが、あるときから“施術はいいので、相談を聞いてください”と言う人が増えてきました。
私は、子どものころから相談を受けることが多かったので、きっと話しやすかったのだと思います。
それに、恋愛、失恋、結婚、離婚、出産、再婚、子育てというライフイベントをひと通り経験しています。
当時は自分の経験則を頼りにアドバイスをしていましたが、次第に真剣に相談に来る人が増えてきました。
そこで、きちんと向き合うために心理学を学んで、カウンセリングの資格を取得しました。
これが、恋愛クリニックを始めたきっかけです。
2度目の結婚生活も、決して穏やかな時期ばかりではなかったのですが、心理学を学んだおかげ私自身も成長し、良好な家庭生活を築けることができました。
昔は身を削って相談を受けていたが…
──カウンセリングをする上で、意識していることはありますか?
りりーさん:
カウンセリングは相談者を笑顔にする仕事だからこそ、自分自身のケアをいちばん大事にしていますね。
的確なアドバイスというのは、自分の心が整っていないとできません。
昔は身を削って相談を受けていましたが、それを続けると自分が壊れてしまいます。
相談者を大事にしたいからこそ、先に自分を大事にすることに行き着きました。
──自分自身のケアというのは、具体的にはどんなことをしているんですか?
りりーさん:
たとえば、スケジュールを組むときは、自分の時間を必ず確保するようにしています。とくに「動的な時間」と「静的な時間」を意識していますね。
動的な時間というのは、スポーツや舞台観賞などのアクティブな行動をする時間。静的な時間とは、静かに過ごして自分を休める時間。
そこからさらに、心が許せる相手と過ごす時間を加えた3つの時間を取るように心掛けています。
恋愛は“心のデザート”だから…
──時間の使い方も、バランスが大事ということでしょうか?
りりーさん:
そうですね。たとえば、身体を健康に保つには、お米(炭水化物)やお肉(タンパク質)、野菜(ビタミン)など、さまざまな栄養素が必要になりますよね。
それと同じで、心にもいろいろな栄養が必要だと思います。なので、バランスは意識しています。
──心の健康を保つうえで、恋愛はどんな栄養になるのでしょうか?
りりーさん:
イメージとしては……恋愛は、デザートですかね。
人はデザートを食べなくても生きてはいけますが、デザートがある人生の方が華やかですよね。
おいしいデザートを口にすると思わず笑顔になるように、人は好きな相手のこと考えていると幸せな時間を過ごせます。
ただ、デザートと同じで、食べ過ぎには注意をしたほうがいいかもしれないのですが(笑)。
カウンセリングが日常的なものに…
──これからの目標や夢を教えてください
りりーさん:
カウンセリングを受けるという行為が、欧米のようにもっと日常的になってほしいと思っています。
整体で肉体をメンテナンスするように、心のメンテナンスも重要。カウンセリングは決して怖いものでありません。
カウンセラーの役割は、複数の選択肢を提示し、相談者の視野を広げるだけです。
最後に決定権を持つのは相談者です。だから、安心して悩みを話してもらえればと思います。
プロフィール りりーさん
東京都出身。恋愛カウンセラー。日本カウンセリング学会会員。心理学検定1級。非営利子育て支援団体認定講師。青山学院大学在学中に結婚、妊娠、離婚を経験。2017年「Dr.Lilyの恋愛クリニック」を設立。
取材・文・撮影/佐々木 翔 写真提供/Dr.Lily