最近まわりでもちらほら聞かれる「私の推しが〜」というフレーズ。推しってどんな存在?ということで、犬山紙子さんに「推し論」を聞きました。
今回お話をお伺いしたのは、来年小学生になる娘さんの子育て真っ最中の、犬山紙子さん。著書『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』では、ユーモアのある切り口で夫婦論を語っています。そんな犬山さんにも、推しがいるとか(全2回中の1回)。
「子どもの横で二次元にハマる」最近の推し活
—— 犬山さんのここ最近の推し活について教えてください!
犬山さん:
アイドルも好きなんですけど、最近では、2次元のキャラクターにハマっています。今はゲームアプリのソシャゲ(ソーシャルゲーム)に、推しがいて。友達も同じゲームに推しがいるので、日々LINEで報告しあったり、趣味専用のSNSアカウントで同じ推しを持つ人たちをフォローして、コメントを見ては「せやな〜」「さすがの解釈!」みたいな感じでうなずいてるのが、推し活の日常です。
—— なぜ2次元なのか?その理由をご自身で分析されていたりしますか?
犬山さん:
小学校6年生のときに初めて二次元のキャラクターに恋したというか、ハマったんです。これは私のケースで人によって千差万別だと思うんですけど。私の場合は、自分がちょっと弱っているときに、そこに逃げ込めば精神的に安定するという、いわゆる「聖域」みたいなものが欲しいといったときに、何かにハマりやすい傾向にあります。
小6のときは中学校受験に向けてめちゃくちゃ勉強してたので、もうそれがパンクしそうなときに、心にキャラクターがぐっと入ってきた感じがしたんですよね。それが子どもの頃、自然と自分で生み出した「つらいときの対処療法」でもあったのかもしれません。
犬山さん:
生活の中で心が「しんどい」となったとき、なんか本当に、推しの存在がありがたいというか。推しのことを考えるだけでちょっと心が落ち着く気がしたんです。大人になってからも、編集者の仕事をしていたとき、徹夜続きで忙しくて…というときに推しが必要になり、ハマったりして。
誰かを推してる人は心に闇を抱えているということでは決してないのですが、私の場合は心が弱っているときに推しの存在が支えになっていましたね。
ただ、最近の推し活の楽しみ方は、よりポジティブな方向になってきています。
推しについて語る「推し語り」ができるリアル友達ができたので、推しがいることを違う形で楽しめていますね。もちろん、自分の妄想で聖域としてのという側面もありつつ。でも、友人とこんなに語り合うのが楽しいんだ!っていうのを、すごい、感じています。
—— ずっと2次元が好きなのですか?
犬山さん:
3次元(実在する人物)にハマったこともありました。推しの出演番組を録画して何回も擦りきれるぐらいまで観たり。やっぱり、好きな人って何回でも観たいじゃないですか(笑)。
—— 好きだった3次元のアイドル?は今では熱が冷めてしまいましたか?
犬山さん:
熱が冷めるというより、「凪」のような状態になってくるという感じですね。好きであることには変わりはないんですけど、幸せに活動して欲しいな〜と思いながら、気持ちが凪の状態になってくるんですね。 ハマりたてのときを噴火状態とするなら、一定の凪になってくるような感じ。それを、繰り返していくんです。
そう思うと、私、そこそこずっと途切れず「オタク」をやっているのかも。冷めたとか乗り換えるっていう感じではなく、大好きなまま、新しい「めちゃくちゃ好き」がどんどん増えてくという感じ。私の「これまで築き上げてきた推しのミルフィーユ」ですね。好きなものが増え続けるのは、ポジティブでしかないですね。
—— 出産前と後で、推し活は変わりましたか?
犬山さん:
うちは、子どもがいつもテレビを占領しているんで…。子どもがいると、自分の好きなものがなかなか見られない。だからスマホで短時間で推しをサッと楽しめるソシャゲにハマったのかも。合間でできるなど、時間もうまく使えますし。
ただ、ソシャゲは「ガチャ(課金システム)」
もちろん、そのせいで子育てや仕事がおろそかになるということではなく。推しに触れている時間は、本当に私にとって良いバランスをくれるんですよね。仕事でも家事でも子育てでもない、自分の趣味の時間みたいな感じ。
また、同じ推し友達と交流できる時間でもあります。大人になっても、こんなに心から楽しめることがあるなんて。毎日忙しいけど「なんだか今の私、ベストバランスかも」みたいに思えるんです。
みんなが「楽しい」を発信しているから、推しが欲しくなるのかも
—— 最近は「推し活」が市民権を得てきていると思います。そこに、何か理由があると思いますか?
犬山さん:
推しについて発信する人たちが増えたんでしょうね。テレビに出る側の人たちも含めて推し活のよさを発信してくれたっていうのが、ひとつの大きいきっかけというのはあるんでしょうね。
というか、オタクってそもそもバカにされるようなものではないと思う。でも、昔は、本当にオタクに対しての偏見がすごかったですよね。私も昔はやっぱり自分がオタクだってことをあまり言えなかったです。最近、若い人たちがオタク活動=推し活で生き生きしているのは、めちゃくちゃいいことだと思います!
—— 推し活していて、よかったことは?
犬山さん:
うーん、推し活って「しよう」としてするするものじゃなくて、「気づいたらしてる」感じなので…。私にとっては生活の一部なので、それによるメリットを改めて思えないというのが本音なのですが(笑)。
でも、人のことを、もっと好きになりましたね。推しの尊さを言語化してくださる人がいたりして、推しを通して「この人すごい!好きだ!」と思えたり。会ったこともない知らない人なんですけど。
あと、私の周りもK-POPアーティストにハマっている子が多いんですけど、推しがいて単純にみんなめっちゃ楽しそうですよね。そういう周りの友達の姿を見てても、「いいな〜、いいもんだな〜」って思ったり。イキイキして推しのことを話してる女の子グループとかを見ると、すごい幸せな気分になるんです。青春だな〜って(笑)。
何かを好きになること、何かを応援することって、すごいポジティブなことです。自分の中から生まれたポジティブな気持ちって、絶対自分にプラスの効果で跳ね返ってくると思うんですよね。
PROFILE 犬山紙子さん
1981年生まれ。コラムニスト、イラストエッセイスト。『負け美女』(マガジンハウス刊)でデビュー。2017年1月に第一子となる娘を出産し一児の母になった現在も、多くの雑誌での執筆活動や、テレビやラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。お酒とボードゲームと洋服が大好き。今推しているのは、ソーシャルゲーム『魔法使いの約束』のキャラクターだそう。
取材・文/松崎愛香 写真/田尻陽子