最近では仕事、家事、育児の合間に推し活に勤しむママも増えてきたとか。例えば、韓国ドラマの主人公にハマったり、オーディション番組でアイドルの卵を応援したり…。「推し」ができて、すごく毎日が楽しい!なんて話を見聞きすること、なんだか増えたような気がします。
「推し活」って、なんだか楽しそう。誰かを推してみたい…!
そこで、コラム本『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』の著者、ライターの横川良明さんに「推しの見つけ方」についてお伺いしました。
「好き」ではなく自分の「引っかかり」を紐解いてみる
—— たとえば推し活に興味を持った人が、自分の「推し」を見つけるためには何が必要なのでしょうか?
横川さん:
推しは「見つけにいく」というよりは、基本的に「落ちる」ものだと僕は思っているんですね。ただ、これだけ推しにみんなが興味を持ってるということは、みんな、落ちたがっているんだろうと思います(笑)。
見つける方法…そうですねぇ。たとえば、テレビを見ていて「なんかいいな」と思った人がいたとしても、「子どももいるのに今さら若い男の子を好きなんて、恥ずかしいかも」という気持ち、あったりしませんか?そのときの気持ちのバリケードはなんなのか、それを考えてみて、取っ払ってみるといいのかも、と思います。
あとは、単純に自分の好みってあると思うんですよ。癖(へき)というんですかね。自分の人生を振り返ると、何か好きなことがある。そこを掘り返してみるとか。
僕はイケメン俳優好きですが、歌手のボーイズグルーブにはひっかからない。そこを分析すると、癖として僕が「生身の人間を推すのがちょっとしんどい」という心理があって。少し、難しいですかね(笑)。
僕は羞恥心が非常に高く、俳優さんは役を演じるので偶像として好きになれるのですが、生身の人だと途端に恥ずかしくなっちゃうんです…。そういった形で、誰もが自分のなかに癖があると思うんですよ。
自分の癖が何なのかわからなければ、いろんなジャンルのエンタメをあさってみるといいかもしれません。必ずしも人でなくてもいいんです。マンガのキャラクターでもいいし、女性芸能人をかわいい、好き!って思えるという人もいると思いますし。何かしら見つけていただけたら、嬉しいですね。
—— 自分の好きを探す作業、という感じですね。
横川さん:
ただ、なんとなく自分は誰にもささらないなあ…というときは、ささる理由よりも「ささらない理由」を探したほうが早いかもしれない。たとえば、イケメンと言われてもいまいちピンとこないという人もいると思うんです。イケメンってなんか裏がありそう…とかね(笑)。
そうしたら、そうじゃないところをあさってみる。成功に理由がなくて失敗に理由があるのと一緒といいますか。「これじゃない、これじゃない」といろいろと試してみて、残ったものが自分の好きなものだったりします。
漠然とエンタメをみるのではなく、そうやって一個一個自分のなかでフィードバックしていくと、自分の「好き」に対する解像度が上がるのかなとは思います。
—— それでもハマる対象が見つからなければ?
横川さん:
そもそもハマる属性の人ではないのかもしれないです。そういう人も、もちろんいると思います。全然違う方向性の趣味を探す、というのもいいんじゃないでしょうかね。
推しに関しては「ある日突然おちる」っていうのがいちばんシンプルだとは思いますね。ただ、ずっと家のなかに閉じこもってる人にそのチャンスはこないので、「道を歩く」ことですね。道を歩くことで、落とし穴にもぶち当たるので(笑)。
—— 「道を歩く」とは、具体的にどうしたらいいんでしょう
横川さん:
外に向けて、アクションを起こしていく。たとえば、気になった配信ライブに対しても「長時間見るのは時間がもったいないしな」と見逃し続けていると、ヒットは絶対当たらない。基本は打席に立ってバットを振っている、くらいの気持ちでいるといつか沼に落ちるのかも。
あとは、すごいオタクと仲良くなるとか(笑)。そうすると推しがいてキラキラしてるのが当たり前なんだと、思考が変わっていく気がします。
—— 確かに友達と一緒に誰かを推せたら楽しそうです。
横川さん:
「友達の推しは推し」「推しの友達は推し」…。そうやって、好きが増えていきますよ。推しが多いと、その分だけ、人生が楽しくなります!
「推し」は現代社会における最高のデトックス
—— 著書にもフィードバックして解像度をあげて見つけた沼った世界の先には、ポジティブな世界が待っていると書かれています。推しがいることの、ポジティブ効果とは?
横川さん:
たとえば、僕の姉は、母であり、妻であり、仕事もしています。ですが、幼い頃からずっと推している男性アーティストがいて。
年をとればとるほど自由に使える時間は減りますが、日常をいったん置いておいて、ただ推しのことを考える時間を過ごせる。肩書きも立場もない時間を過ごすのって、かけがえのないことだと思うんです。「好き」というブレない軸があるので、逃げ場ができるという意味でも、ものすごくラクですし。
—— いまの状況はいったん置いといて、自分そのものになれる感じでしょうか。
横川さん:
いつでも10代の頃に戻れる、みたいな感じですね。どうしてもときめきって、だんだんなくなっていくじゃないですか。そういったなかで推しは、ものすごくインスタントに自分にときめきをくれる人。リアルだといろいろ実害も出てきてしまうので(笑)…インスタントっていうのが、すごい大事だと思うんです。
検索して推しの姿を見ただけでも「あ、オッケー、がんばろ」みたいな気分になる。そんな対象がひとつあるだけで、日常への頑張れる力っていうのはすごいあるかな、と思います。
また、強く愛するものがあると、人にも優しくできる気がします。好きなものがあるとみずみずしい感受性でいられるんです。そして、なんだかんだいって、楽しい!「好き」のエネルギーは、強いです。
僕の場合は、いくつになっても、人生には苦しいことだけでなく楽しくてワクワクすることが待っているんだと思えて、自分のことをちょっぴり好きになれました。
お金を使うだけがすべてじゃない「推し」方は人それぞれ
—— 推しがいるって、もういいことずくめな感じもしますけど、あえてマイナスがあるとしたら?
横川さん:
まあ、お金は使っちゃいがちですよね。欲しいものを手にいれる所有欲と、推しに貢献できる奉仕欲、そして汗水流して稼いだお金を浪費している背徳感。これも、ある意味やみつきになっちゃうんですけれど。
とはいえ、ただ推しに対してお金を使えばいいということでは、決してないです。僕もよくこういった類の相談を受けるんですが、オタク仲間同士で「推しにお金を使えないけど、私はこれで推しの力に果たしてなれているんだろうか…」という、自己バイアス。そんなのは、気にしなくていいんだよ、といってあげたいです。
推し活は、楽しくやれなきゃ意味がない。心のハッピーがすべてなので、それが奪われるくらいなら、やらないほうがいいんですよ。だから、無理してお金を使う必要なんて絶対にないんです。「私はお金をかけられないし…」とマイナスになるのではなく、 「自分は自分の推し方がある!」と開き直っちゃえばいいんです。
—— 本当に推しを好きなっちゃう!までハマったら?
横川さん:
ははは(笑)。我々は大人なんで、自分たちでフォローしたりちょっと距離をおいたり、自己管理をしながら推し活を楽しみたいですね。旦那さんがファッションに興味のない人だったら、推しが着ていた服とお揃いのものを着せてみよう!とか、そういう楽しみかたをしてみるのもひとつです。
—— 推しと、お揃い…!
横川さん:
推しができると「推しとお揃いの何かが欲しい」という心境になったりするんですよ。その理由を分析して本には書きましたけど…、大切なことはその行動の理由ではなく、推しがきっかけとなって、自分が普段とらない選択を選べるということ。
ちなみに僕は、『おかえりモネ』の坂口健太郎さんにハマり、ドラマの中で彼がヒロインにあげたキーホルダー、買っちゃいました(笑)。持つと、日々ちょっとうれしくなるんですよね。
それでなくとも、30〜40代にもなってくると、どんどん自分の選択肢を決めてしまいがち。食べ物ひとつでも、自分の嫌いなものは作らないし食べなくなりますし。自分に似合わないものは着なくなりますし。
そんなときに推しの影響で「ちょっとこの色着てみようかな」と思ったり、ルーティンになりがちな自分を変えるチャンスとして、すごく推しはいい口実になると思います。口実でいいと思ってます。それがきっかけで、日々を、ちょっとでも楽しめたら。
—— 日々をちょっと楽しむ、大切ですよね!
横川さん:
推し活は、みんな平等に楽しめることだと思います。最近のファンの子たちは、現場(推しに会える場所)に行くにあたり「かわいくありたい」とか「キレイになりたい」とか思う人が多いようで、そういったことは、自己啓発や自分磨きにもなると思います。
ボーイズグループだったら推しのメンバーカラーでネイルするとかね。女性にこそ楽しめる要素が、推し活にはたくさん詰まっていると思います。だからこそ、どんどん推し活をしてほしいですね!
—— 忙しいから推しに費やす時間がないという場合もありますよね。
横川さん:
時間的配分だって、自分の中で定めていいと思います。SNSを少し見るだけで、エネルギーをもらえてしまうなんて、最高ですし。自分なりのルールで、自分が一番楽しく推し活をできるやり方を、ぜひ見つけてみてほしいですね。
PROFILE 横川良明さん
イケメン俳優オタクでもあり、エンターテイメントを中心に広く取材・執筆を手がけるライターとして活躍。著書に『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)。
取材・文/松崎愛香 写真/田尻陽子