内田舞さんの家族

「わざと飲み物をこぼす」「園に行くのにグズる」。ハーバード大学助教授にして日本の医学部出身者で史上最年少の米国臨床医になった、内田舞さんも3児の母として子育てに奮闘するひとり。

 

子どもの態度にイライラしたり、母親として自信を失いそうなとき、親子のメンタルや行動を変える「再評価」という対処法を自ら実践するそう。その方法とは?ドクター内田による思わず納得!の講義がスタートします。

“わざと水をこぼす”子どもに投げかける3つの話

私が研究しているテーマのなかに、「再評価」というものがあります。これは心理学用語で、リアプレイザル(Reappraisal)といいます。

 

ネガティブなできごとが起きた際、わき起こる感情から立ち止まって、その感情や状況に対して、実際にネガティブな感情でいる必要があるのか?起きたことに対して気持ちを変えられるか?と、「再」び改めて「評価」し、気持ちや行動を考え直す概念のことです。

 

私自身も育児のなかで「再評価」を考えながら、ふだんの子育てで実践しています。こどもの日常では、感情、考え、行動の3つの要素に分けて再評価していきます。

 

実際にあった私の経験を例にとって説明しましょう。長男が3歳だったとき、仕事から家に帰ると、長男が私に学校で作った自分の絵を見せたがりました。

 

でも、私は他に対応しなければならないことがあって、すぐに見られませんでした。そうした私の態度をみて、長男は不満を表してわざと水をこぼしたんです。

 

ふつうに考えると、そこでカッとなって、「面倒を増やさないで!」と声を荒げることもあるでしょう。

 

そう言いたい気持ちはやまやまだったのですが、グッと踏みとどめて、子どもを抱きかかえ、いま起きたことについて感情、考え、行動の点から「再評価」してみよう、と長男と話し合いました。

すぐにかまってあげなくても子どもは大事な存在

長男の感情として、まず、絵をみてもらえなかったことに対してどんな気持ちだったか?聞きました。そうしたら、長男は「悲しい、怒りたくなった」と言うんです。

 

次に、絵を見てもらえなかったことで、どんなことを考え怒ったり、悲しくなったの?と長男の考えについて問いかけました。長男は「自分がママにとっていちばん大切なものでないと考えて、悲しくなった」と言うんです。

 

最後に、行動について確認しました。それでどう行動したの?と聞くと、息子は「水をこぼした」と。

 

そこから3つの点に関して、次のように「再評価」しながら子どもに話しかけました。

 

『感情』に関しては、「すぐにママが絵を見られなかったから、悲しくなった感情はわかるよ。ごめんね」と子どもに謝りました。その気持ちはわかるけれど、『考え』は間違っているよ、と伝えました。

 

なぜなら「ママにとってあなたはいちばん大切な存在。だけど、いつでもいちばんに対応できるわけじゃない。いちばんに対応しない=いちばん大切じゃない”という考えは間違っているからね」と、諭しました。

 

だから、その『考え』は見直さないといけない。すぐに対応しても、もっと後回しになって対応しても、“あなたはいつでも大切な存在には変わらない”と伝えたのです。

そして、再評価した『考え』が変われば「少しは気持ちもやわらぐよね、怒る気持ちも少しは変わるよね?」と続けました。

 

あなたが水をこぼしてもこぼさなくても、ママにとってはいちばん大事なのは変わらないから、と話して、『行動』として、「じゃあ一緒に水をふこうか」といって、子どもも納得しました。

カッとなって怒っても親自身が悪いわけじゃない

もちろん、これはうまくいった成功例ですが、毎回わが家がこんなにはうまくいくわけではなくて、感情だけでカッとなるときもあります。

 

たとえ、いつもすぐにできなくても、3つの再評価を意識して、自分に正直になって、感情がどんな考えからきているのかをしっかり見つめる習慣をつけてみましょう。

 

自分の感情と考えを理解することが何よりも大事。感情の元の考えが何かを理解できたら、そこから論理を使って、本当にこの感情を感じないといけなかったのかな、と吟味してみましょう。

 

いつも再評価のために立ち止まれるわけではありません。その場では感情的になって怒ってしまうこともあります。

 

人間なので仕方ありませんし、怒ることがダメというわけではありません

 

でも、もし後から「怒らなかったほうがよかったな」と思い出したら、「怒ってごめんね」といって、再評価について話し始めてもいいと思います。

 

そうやって再評価の練習を繰り返していけば、できごとがあったときに、徐々に使えるようになっていきます。

 

生活していくなかで、あるできごとを目の当たりにしてネガティブな感情になったとしても、「再評価」を利用してポジティブな方向にもっていけることが少しでもあれば、子育てを含めた人生はより幸せなものなると思います。

 

PROFILE  内田 舞さん

内田舞さん
小児精神科医、ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医に。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。

文・画像提供/内田舞