コロナ禍で在宅時間が増え、メイクをする回数が減った人も多いのではないでしょうか。化粧品業界は現在どのような動きにあるのか、経済アナリストの増井麻里子さんに聞きました。
インバウンド需要と国内需要が減少
2020年の国内工場の化粧品出荷額は、1兆4783億円でした。ピークだった前年の1兆7611億円から16.1%の減少となりました。2013年からインバウンド需要が牽引し、成長していた化粧品市場ですが、2014年の水準に戻ってしまったのです。
コロナ以前から、インバウンド需要は縮小し始めています。2018年までは、中国の個人の方々が日本で大量購入した商品をスーツケースいっぱいに詰め込み、中国のネットショップやSNS上で高く売って利益を得たり、安く売ってシェアを取ったりすることが横行していました。
しかし、2019年1月、中国で「EC法」が施行されたことで、EC上で個人も企業と同様の納税が義務付けられ、違反者には罰金が科せられるようになりました。また、EMS (国際スピード郵便) により発送された化粧品、医薬品、医療機器、保健食品も、中国当局の認可を得なければ通関できなくなったのです。これにより中国人の爆買いが減少しました。
日本では2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大により、外出機会が減っただけでなく、人が多く集まる結婚式やイベントが少なくなりました。外出しても、マスクをつけるため口元のメイクをしなくなり、特に口紅売り上げが減少しました。
2021年は、欧米市場が強い回復を見せ、厳しい国内需要をカバーしています。
二極化傾向にある日本の化粧品業界
現在の日本の化粧品業界の傾向はどのような状況でしょうか。実はプチプラと高級志向の二極化の傾向にあります。
アイシャドウ、チーク、口紅などのポイントメイクは、昔に比べてプチプラでも性能のいいものが増え、ドラッグストアでも手軽に買えるようになりました。
一方、デパートなどで販売するメーカーは、高価格帯に注力することで、収益を伸ばしています。肌に直接つけるスキンケアは価格が高くても売れる傾向があります。
手軽に質のいいものが手に入るドラッグストア、ブランド化でこだわりを見せるデパートの二極化により、中間価格にあった化粧品は売れづらくなりました。韓国コスメが質が良くリーズナブルなうえに、手に入れやすくなったこともあり、コロナ禍でも売り上げが伸びており、競争はますます激しくなっています。
アパレル業界も日常はファストファッション、特別な日はブランドファッションなど人々が使い分けをする傾向があります。化粧品業界も今後、このように二極化が鮮明となっていきそうですが、3000円から5000円程度のスキンケア商品を出して、高級品を使いたいという高齢者層や若年層に訴求するメーカーもあります。
スキンケア、ヘアケアの伸びに期待
今回はインバウンド需要の減少という特殊な事情がありましたが、実は化粧品はもともと売り上げがあまり変化しづらい業界と言われています。
景気が悪いと売り上げは落ちそうですが、そのような状況のときは女性が働きに出るため、化粧品の需要は増加。景気が良いとイベントやパーティーなど華やかな場が増え、同じく化粧品の需要が増加するのです。
また気に入ってリピートしている化粧品がある人は、例え景気が悪くても、簡単にグレードを落とすことは少ないと言えます。化粧品の再販維持制度は1997年に撤廃されましたが、依然として値崩れしない傾向があります。
しかし新型コロナウイルスがまだ流行している現在、店頭でテスティングサービスができないのは、業界にとって打撃です。試供品などを配って対応していますが、リピーターを獲得するのにコストがかかるのが痛手となっています。
しかし、日本製の化粧品はブランド力が高く、スキンケアに関心が高いアジア圏で売り上げが伸びています。欧米ではフレグランスが人気で、化粧水などはあまり売られていないのですが、今後はスキンケアへの関心の高まりが期待されており、伸びしろがあるでしょう。貿易統計では、化粧品の輸出金額が、2016年に輸入金額を上回ったころから急上昇。コロナ禍でも好調で、2020年は6824億円、2021年には8187億円と増加し、そのうち中国向けが4106億円と半分を占めています。
スキンケアの売れ行きは好調で、化粧品メーカー以外の企業も参戦しています。最近では肌や頭皮など、変えられないものに消費者はお金をかける傾向が強いです。今後もスキンケアに加え、ヘアケアアイテムも需要が底堅く推移していくでしょう。2022年は経済正常化に伴い、ポイントメイクの回復も期待されます。
PROFILE 増井麻里子さん
取材・文/酒井明子