2022年4月1日、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
明治以来140年ぶりの変更となりますが、それと逆行するかのように、複数の著名人が口にする「30歳成人説」をご存知でしょうか。
今回は、30歳成人説とはなにか、提唱される理由などを紹介。18歳成人になった今なぜ?という疑問にもお答えします。
「成人」とは?できることとできないこと
これまで140年のあいだ20歳とされてきた日本の成人年齢。
でも、そもそも「成人」とはどのような状態をいうのでしょうか。
民法では、成人には次のような権利が認められます。
- さまざまな契約が親の同意なしにできる(携帯電話・クレジットカード・車やエステ等高額ローンなど)
- 資格取得(公認会計士、司法書士など)ができる
- 結婚できる(女性が16歳から18歳に変更)
※ただし、飲酒喫煙やギャンブルはこれまでどおり20歳からと定められています。
移行期の2年間を除き、今後は18歳の誕生日から成人となるため、高校生であっても高額のローンや契約が1人でできるようになりますが、もしもだまされて契約してしまった場合、これまでは「未成年者取消権」によって解除できたのが、これからは基本的に取り消しできなくなります。
そこで高校生のうちに成人の責任について学べるよう、社会科の科目も変更になっています。
「30歳成人説」とは?
さて、そんな世の中の逆をいくような「30歳成人説」とは何でしょうか。
これまでに、作家の村上春樹氏、コピーライターの糸井重里氏、リクルートワークス研究所の大久保幸夫氏など、複数の著名人が30歳成人説を提唱しています。
なかでも村上春樹氏の次のような発言が有名です。
たとえば22で大学を出て、「さあ、一生かけてこれをやろう!」と思えるようなことって、そんなにないでしょう?ですから、僕は前々から「30歳成人説」を提唱しています。30まではいろんなことをやってみて、30になってから人生の進路をはっきり決めればいいじゃないかと。
糸井重里氏もこのような話を書いています。
ぼくはもともと「30歳成人説」を唱えていますから、
23歳というと、大人でありながらも、
ほんとうの大人じゃないくらいには思っています。
大人としての教養が足りてないとか、
そういうこともあるのでしょうが、
それよりも、いいことがあるような気がします。
23歳くらいの若いときって、
生きるにあたっての冒険心のようなものが
まだ生々しく息づいていると思うのです。
要するに、労働や結婚出産が可能かどうかという肉体的な線引きではなく、精神的に成熟して人生の方向性を定める時期を「成人」と捉えているのですね。
そして、それには20歳では早く、大学卒業後に失敗や試行錯誤も含めたさまざまな経験をした30歳頃がちょうど良いのではないか…という提案が「30歳成人説」というわけです。
親としても、子供が早い時期に自立してくれればもちろん安心ですが、たとえば浪人して大学に入学すれば、20歳といえばまだ大学1年生。成人式で成長を実感しつつも、まだまだ自活は無理…と感じる人も多いのではないでしょうか。
今の社会には18歳成人・30歳成人、どちらがいいのか
今回140年ぶりに成人年齢が引き下げられた背景には、少子高齢化が進む社会で若者が早く選挙権を持つことで、高齢者向けに偏りがちな政策のバランスを取ろうという意図や、凶悪犯罪者が未成年を理由に実名報道されない状況を改善するためなどの理由もあります。
いっぽう、30歳成人が提唱される背景には平均寿命の変化が関わっています。
江戸時代には男子15歳・女子14歳で髪型を変えて大人として扱われるようになったという記録があります。
明治9(1876)年に諸外国にならい20歳を成年と定めたのですが、当時は60歳くらいで亡くなる人が多かったため、平均寿命が80歳を超え「人生100年時代」を迎えようとしている現代に置きかえてみると、たしかに成人が30歳でもおかしくないかもしれません。
ただ、これは本当にすべての若者が30歳まで学生でいるという意味ではもちろんなく、就職したり起業したり留学したり、もちろん結婚や出産も視野に入れた上で、ある程度の経験を積んだ大人として方向性を決めるのがその頃でも良いのではないかという考えだといえます。
一定のルールは設けつつ、早い時期に起業して経済的に自立する人もいれば、いったん社会に出て本当にやりたい仕事と出会い、本場へ留学して学ぶ人もいる。
今後は、そのような多様性を受け入れられる社会へと成熟していくのが理想的なのかもしれません。
文/高谷みえこ
参考/
18歳から“大人”に!成年年齢引下げで変わること、変わらないこと。 | 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201808/2.html
書籍『「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』朝日新聞社
23周年のご挨拶。糸井重里 - ほぼ日刊イトイ新聞 https://www.1101.com/darling_column/23rd/index.html
週刊エコノミスト Online|「江戸時代の平均寿命は30歳」はなぜ「江戸時代の人は30代で死ぬ」ではないのか https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200611/se1/00m/020/010000d