2020年10月にロールス・ロイス社が主催した、16歳以下の”未来のデザイナー”を選出する「世界ヤングデザイナーコンペディション」。「未来を走る車」をテーマとしたこのコンペには、世界80か国以上から、5000を超える応募がありました。そのなかで、日本人最優秀賞、世界大会優秀賞に輝いたのが、当時弱冠6歳だったSayaちゃんです。

 

受賞した作品『カプセル2020』は汚染された空気を燃料にして、車のなかで空気を清浄化し排出するというユニークな発想。Sayaちゃんのクリエーションの源はいったいどこから…?お母さまのMayaさんにお話を伺いました。

想像力の源の「読書」は食事中もやめない

── Sayaちゃんの豊かな想像力はどこからきているのでしょうか?

 

Mayaさん:

Sayaは大の読書好きで、活字を覚えてからは毎日欠かさず本を開きます。ときには、寝る前に読んだ本の続きを夢に見ることがあるようで、目を覚ましてから夢の内容を紙に書き留めたり、私に聞かせてくれることがあります。

 

── 読書から刺激を受けているのですね。

 

Mayaさん:

そうですね。暇さえあれば本を読んでいます。それがたとえ食事中であっても。ほかの親御さんなら、そこで注意をしたり、時間を制限させるかもしれませんが、わが家ではほとんどそれをしてきませんでした。

 

というのも、何かに夢中になり没頭できる時間はかけがえのないもので、幼い子どもの想像力を広げることは小さな規則を守ることよりもずっと大切だと考えるからです。

 

それから、自宅にある92個のぬいぐるみたちすべてに名前をつけ話しかけています。ぬいぐるみそれぞれに好物があり、個性があり、ストーリーがあります。私も彼らの性格を丸暗記しているので、ときどきぬいぐるみたちの会話に参加しています。

 

意図的に子どもの想像力を伸ばそうとしたわけではないのですが、制限しなかったことが発想力を豊かにさせるきっかけに繋がったのかもしれません。

 

── Sayaちゃんの才能はご両親やご家族の影響もあると思いますか?

 

Mayaさん:

私は完全な理系で、数学や物理を学び、外資系投資銀行でトレーダーとして働いていました。学校の成績はよかったものの、図工だけは2。犬さえ描けないし、私が描くアニメのキャラクターは子どもたちに認識されません…。主人もアートの才能は壊滅的なんです。

 

ただ、私の祖父、祖母、父、姉、3代みな作家の家系で。白紙からクリエイトするという意味では娘と通ずるところがあるのかもしれません。

 

娘の絵には壮大なストーリーがあります。例えば、夜空のなかのキリンを描いた絵。キリンの名前は『ブルーベリーちゃん』。サバンナに住んでいるけれど怖がりで夜が嫌い。だから月夜が照らす明るい場所にいるようにしているそう。家の壁に絵を飾るときは、他の動物の絵の隣を好みます。

Sayaちゃん作「夜空のなかのキリン」

娘の世界観はとても愛おしく、私にはない才能を持っています。33歳も年下ですが、ひとりのアーティストとして尊敬しています。

 

── 年齢に関係なく、娘さんのことをリスペクトできる関係性は素敵ですね。MayaさんからSayaさんへ具体的にアドバイスを送ることは?

 

Mayaさん:

ちょっとしたアドバイスはときどきしますが、本人はまったく聞きません。もし逆にそれを聞き入れていたらSayaの世界観は生まれなかったでしょう。

 

空を飛ぶクジラ、真っ青なキリン、虹色のトラ、紫と黄色の瞳をもつネコ。それがSayaの感性であり、正しいこと。そこで私が『キリンは黄色でしょ!』と言っていたらSayaの代表作『青いキリン』は生まれなかった。だから毎回お口にチャックをして、グッと堪えています。

 

── 親としてはつい口を挟みたくなるものですが、やはり見守る姿勢が大事ですね。

 

Mayaさん:

子どもの自主性に任せるようにしています。Sayaは絵を描くスタイルもとても自由で画材は筆だけでなく、歯ブラシ、綿棒、段ボール、鉛筆の削りカス、ブロッコリー、木の枝、葉っぱ、水風船など、家じゅうをうろうろと歩き回って使えそうな道具を自分で見つけて描いています。

 

私からも「好きなものを使っていいよ」と伝えています。絵に決まった構図はいっさいなく、紙から思いきりはみ出したって全然構わないんです。

モチベーションキープの秘訣は「描きたいときに描く」こと

── MayaさんのInstagram(@mayamaya411)を拝見すると、Sayaちゃんは毎日夢中で絵を描いているようですね。幼いながらも絵を描くモチベーションをキープできる理由は何でしょう?

 

Mayaさん:

実は毎日絵を描いているわけではなく、長いときは2週間ほど描きかけの絵を放置することもあります。そうかと思えば、ふと思い出したかのように続きを描き始め、また悩んだら本の世界へ逃避して。Sayaの絵は「物語」。話の続きを思いついたら、また描き始めるというスタンスなんです。

 

最近はテレビへの出演、伊勢丹でチャリティーカレンダーの販売など、娘の活動を見た学校の友達から「すごい!」と言ってもらえるのが嬉しいみたい。また、自分の描いた絵がカレンダーやぬり絵になってチャリティーに繋がったり、子供地球基金に寄付できたときは誇らしげでした。

 

── 周囲の反応に純粋に喜ばれる姿は小学生の女の子らしさを感じてホッとします(笑)。Sayaちゃんは普段どのような性格なのでしょうか?

 

Mayaさん:

おっとりしていてメルヘンなところもあって、笑顔の絶えない子です。いつも頭のなかは楽しいことでいっぱい。落ち込むこともまったくなく、少し心配になるくらいポジティブ。チャレンジ精神旺盛で、人前に出ることも嫌いじゃない。ふわふわして見えますが、しっかり目立ちたいタイプです。

ロンドン在住時に先生から言われたひと言が人生の転機に

── 2歳〜5歳半までの間はロンドンで暮らしていたとか。そのころから色彩感覚や自由な画法は変わっていなかったそうですね。当時のSayaちゃんはどんな子でしたか?

 

Mayaさん:

渡英した当時、Sayaはまだ2歳でした。通っていたナーサリーで描いた自画像は緑やピンクの顔をしていて、髪の色はブロンド。でも先生方はそれを直そうとしたり止めたりせず、個性として受け止めてくれました。

2歳のときにSayaちゃんが描いた自画像

先生方は本当に娘に対して優しく、愛情をたっぷり注いでくれ、良いところを伸ばしてくれました。Sayaの才能に気づけたのも先生が「もしかしたら彼女にはアートの才能があるかもよ?」と教えてくれたからです。もし言われなかったら帰り道に絵の具を買うこともなく、画用紙を広げることもなかったと思います。

 

 

先生のひと言を受け、すぐに絵の具を買ってあげたと話すMayaさん。その行動がやがてSayaちゃんの才能を一気に開花させます。その子の長所を見逃さず、やりたいことを自由にさせてあげることが、子どもの才能を伸ばす秘訣なのかもしれません。

取材・文/望月琴海 画像提供/Mayaさん