春の旬である、たけのこ。そこで、余談です。「たけのこといえば思い浮かぶお菓子は?」と聞かれたら、ほぼすべての人が答えるのが「たけのこの里」ではないでしょうか。実はたけのこの里のあの形、立体商標登録がされており、他では真似できないもの。商品の形状としての商標登録は認められていない中で、実はこれは異例なのだとか。そのヒミツとは?株式会社 明治の広報ご担当・日髙さんにお話を聞きました。

日本人のふるさとの心を思い出そう…と43年前に誕生

発売は、43年前の1979年(昭和54年)の8月。「わあ、同世代!」と思った人もいらっしゃるかもしれません。その5年前の1974年に誕生した「きのこの山」の兄弟的存在を作ろうということで、開発されました。ちょうど高度経済成長期だった当時、人々が自然や故郷を求めていたことから、のどかな里山をイメージ。ふるさとが思い出されるような郷愁を感じるお菓子に、というコンセプトで作られました。

 

ちなみに、きのこの山は同じく明治のお菓子である「アポロ」から着想を得たもの。アポロを作る際の金型を使って何かできないか…となったときに、流したチョコレートにカシューナッツをさしてみたら「キノコみたい!これは、いいかも」というのがきっかけとなり、生まれたそうです。

クッキーを円すい型にするのは、実は日本初の試みだった

兄弟的存在のきのこの山とたけのこの里は、似ているようでまったく異なるお菓子です。

 

きのこの里はザクザクとした食感のクラッカーなのに対し、たけのこの里はホロホロとやわらかい食感のクッキー。たけのこの里ファンにとっては「このクッキーが好きなんだよね」という人も多いのではないでしょうか。

 

実はクッキーを円すい型にするというのは、日本初の試みでした。そう言われてみると、円すい型のクッキーって、なかなか他のお菓子ではあまりみられない形状です。

 

当時はクッキーといえばやわらかい生地を板状に流して型抜きし、形作るのが一般的でした。これを円すい型にしようとすると生地がやわらかすぎて、至難の技だったそう…。それでもコンセプトから生まれた「たけのこ」をなんとか実現したいという思いで生地の配合や技術の面で何度も施策を重ね、型を整えながら焼く型焼という手法を用いて、今のたけのこの形ができあがったのです。

たけのこ型は商標登録もされています

きのこの山は2018年に、たけのこの里は2021年に立体商標として特許庁に登録されました。この円すいの形自体が商標登録されるまでは、実はとても長い道のりだったとか。立体商標制度が導入された1997年に出願した際は、「商品の形状」としての立体商標は残念ながら認められず…。ですが明治は、たけのこの里を「独自なお菓子」とするためにあきらめることなく、アンケート調査を開始。回答者の89%が「たけのこの里」の形状だけで商品名を回答したという結果を提出しました。これにより世間の人々による知名度が認められ、例外として商標登録にいたったそうです。

クッキーの塩分量は43年間で変わっていた!

クッキーを覆うチョコレートにもひみつがあります。このチョコレート、よく見ると二層になっています。カカオが香る少しビターなミルクチョコレートと、まろやかな甘めなミルクチョコレート。外側の濃い色をしたチョコレートは口どけがよく、内側の薄い色をしたチョコレートはミルクパウダーなどをたっぷり入れたミルク感の強い味。ホロホロとした食感のクッキーになじむ配合が考え抜かれています。

 

そして、クッキーには若干塩味がプラスされているのに気づきましたか?このいわゆる「甘じょっぱさ」が、食べたくなる、とまらなくなるヒミツ。この塩分量も43年間、時代に合わせてブラッシュアップされているとか。昔のものと食べ比べると、まったく味が違うそうです。これがまた、ミルクチョコレートと相性抜群なんですよね。

たけのこの里の日は「3月10日」

2016年、国民の祝日として「山の日」が制定されました。それに便乗して、「山の日」=「きのこの山の日」と制定。それでは「たけのこの里の日」も作ろうということで、「さ(3)と(10)」の語呂あわせから、310日がたけのこの里の日に制定されました。

 

ちなみに、広報の日髙さんの生まれた日も3月10日だそうですよ!

パッケージもこんなに変わってきました!

歴史があるからこそ、パッケージもブラッシュアップされています。1979年の誕生当時は、コンセプトの郷愁感を全面に押し出していました。それから時代の変化にともない変わる消費者の嗜好やニーズ、トレンドに沿って少しずつブラッシュアップ。43年の間のパッケージ変遷の一部を見てみましょう。

 

1979年…発売当時のパッケージ。どこか懐かしいふるさとを思わせます。こちらと同じパッケージの「たけのこの里復刻版」が、2022年4月19日より全国にて、期間限定で発売されています。パッケージの裏面には、その年にあった出来事や商品豆知識も記載しているとか。また、 昭和レトロを楽しめる企画として、キャンペーンサイトの AR ボタンまたは店頭ポスターに記載されている二次元 コードをスマートフォンで読み込むと、キャンペーン用インスタグラムに移動しAR エ フェクトが起動。撮影者の背景が昭和の街並みになり、復刻版パッケージが登場するなど面白い企画が( ※AR の起動には、Instagram の最新アプリのインストールが必要です)。

 

1984年…再びパッケージをリニューアル。赤の印象が強く、だいぶ雰囲気が異なります。

1987年…パッケージのリニューアルで、いままで通りのグリーンベースに戻っています。子どもの頃はこれだった、懐かしい!という人も多いはず。

1999年…このリニューアルで、パッケージはいまのものに近くなってきました。

 

そして、現在の姿に辿り着いたのは2019年にリニューアルでとのこと。たけのこの里は外見だけでなく、中身のチョコレートとクッキーのバランスも都度見直され、いまの味にいたります。

 

 

「発売当初は、ここまでロングセラーの商品になるとはまったく思ってもいなかったと当時の社員は言っているそうです。それでなくともお菓子は頻繁に新商品を提案するものなので、入れ替わりも激しいもの。そんななかで、43年間少しずつ変遷を遂げながらも当時のままの形状で残っているお菓子というのは大変珍しいです。そこまでお客様にご愛顧いただいているというのは、非常にうれしいことですね」と、広報の日高さん。

 

試作を重ねて作られたあの円すい型だからこそ味わえる、あの食感とあのおいしさ。さらに立体商標登録をされたことで、それがたけのこの里だけのものとなったんですね!

取材・文/松崎愛香 写真/田尻陽子