さまざまな商品の値上がりのニュースが続くなか、チーズの値上がりも発表されました。なぜ今、チーズまでもが値上がりしたのでしょうか?経済アナリストの増井麻里子さんに見解を伺いました。
チーズの種類と自給率
日本の主要な乳業メーカー数社が、4月1日出荷分からチーズを値上げしました。嗜好品として扱われるチーズですが、日本の食卓に定着しつつあり、家計にダメージを与えることが予想されます。
チーズは大きく2種類に分かれます。
1つはナチュラルチーズです。牛、山羊、羊から絞った生乳を殺菌処理し (海外では無殺菌乳も使用)、乳酸菌スターターや凝乳酵素を加えて固め、水分を抜いて菌やカビを加えたものになります。モッツァレラやクリームチーズなどのフレッシュタイプは熟成しませんが、その他のタイプは熟成し続けるため、時間が経つと味の変化が楽しめます。
もう1つはプロセスチーズです。1種または数種類のナチュラルチーズを粉砕して溶融塩などとともに加熱し、乳酸菌やカビを死滅させて熟成を止め、冷却したものです。賞味期限が長く値段が安いため、一般家庭で親しまれています。
ナチュラルチーズは7種類に分かれますが、日本では青カビタイプ (ゴルゴンゾーラ、ロックフォール)、山羊乳のシェーヴルタイプ (サント・モール・ド・トゥレーヌ)、ウォッシュタイプ (エポワス、タレッジョ) よりも、比較的クセのないフレッシュタイプや、白カビタイプ (カマンベール)、セミハードタイプ (ゴーダ、チェダー)、ハードタイプ (パルミジャーノ、ミモレット) が好まれています。
農林水産省によると、2020年度の国産ナチュラルチーズの生産量は47,564トン、輸入ナチュラルチーズの総量は282,494トンでした。プロセスチーズは国産が134,278トン、輸入が9,247トンです。
ナチュラルチーズのうちのプロセスチーズ原料用は、国産が21,307トン、輸入が91,532トンであり、国産割合は18.9%です。 ナチュラルチーズベースで見たチーズ総消費量の国産割合は、14.1%にとどまっています。
国際価格が上がった理由
今回のチーズの値上がりには、輸入原料チーズの高騰が関係しています。
2020年夏から欧州、2021年夏からオセアニアの輸入原料チーズの価格が上がり始めました。原因のひとつは、生産量の減少です。飼料や燃料の高騰、牧草の生育不良などにより採算が悪化したためです。
もうひとつの原因は、中国の買いつけが増えたことです。経済成長すると共に、中国人の食生活も変化し、嗜好品のチーズを食べる人が増えました。
チーズの需要が増えたのは、中国だけではありません。
日本人一人当たりの年間消費量は、70年前に比べると200倍になったと言われています。ここ数年でも2013年度の2.2kgから、2020年度の2.7kgへと増加傾向にあります。
また、輸入原料チーズだけでなく、包装資材、物流などのコストも上がりました。2021年は原油価格が高騰。新型コロナウイルスの影響で人手が不足し輸送がスムーズに行えず、コンテナも不足しました。
円安が進んだこともコストアップ要因です。2022年からはウクライナ情勢により航空便の欠航が相次ぎ、入荷遅延も起こっています。
国産チーズに注目が集まる
輸入チーズの多くには、29.8%の関税がかけられています。2019年発効のEUとの経済連携協定 (EPA) では、ハード系は段階的に16年目に撤廃となるものの、日本人が好むソフト系 (乳脂肪45%以上のクリームチーズ、モッツァレラ、カマンベール等) は維持されます。したがって、長期的に見ても輸入チーズの値下がりは期待できません。
そこで今、国産ナチュラルチーズに注目が集まっています。
2021年度の生乳生産量は、752万トン(前年度比+1.2%)と、3年連続でプラスの見通しです。用途別では牛乳等向けが407万トン (▲0.4%)、乳製品向けが341万トン (+3.3%) 、チーズ向けは40万トン程度です。牛乳は日持ちがせず国産でまかなわれるため、競合が少ない分、乳価を高く設定できます。したがって国は、乳製品向け生乳に絞って補助金を出しています。
広大な土地を持つ欧米は酪農に強く、コスト面でも安くチーズをつくることができます。国土が狭く山間地が多い日本は不利ですが、北海道では飼養一戸あたりの乳牛頭数が増え、規模拡大が進んでいます。搾乳ロボット活用など、スマート農業も進み、生産性が高まっているのです。
ワインもそうですが、国産ナチュラルチーズもここ数年でかなり美味しくなり、国際コンクールで入賞するようになりました。チーズ工房の数も2006年の106から、2018年には319まで増えています。これらのチーズは大量流通に乗りませんが、ネットで買える時代ですので、これを機にいろいろと試してみてはいかがでしょうか?
PROFILE 増井麻里子さん
取材・文/酒井明子